第4話 黒影——白桃の視点
追いついてきたシュシアともこべえにゼロは振り返り、訝しむ様に紅い瞳の目を細める。
「君には村でやり残した事は無いのか?」
元々ゼロについて行かせる気は無かったのか、シュシアが村に戻っている最中に去るつもりだったようだ。
「私に家族は居ませんから……」
「…………そうか」
少し申し訳なさそうな、そしていかにも自然に宣うシュシア。嘘偽りは無いそれにゼロは否定するでもなく、しかし疑念は晴れぬままに再び背を向けて歩き出した。
ゼロ達はしばらく青い空の下の草原の街道を歩き、やがては薄暗い山の中へ入って行く。
その森は昼間だというのに夜のように暗く、鳥や動物も見かけない。吸い込むようなやや冷たい風が巨大な生物の口腔を想わせる。
ただ針葉樹が群れ乱れて静かに根を下ろすのみの森。だがこの先はここら一帯が王国の時だった時代の名残、今は風化した隣国兵士用の留置場と隊長格の首を切り落としていった処刑場がある。
その先、森を抜けて山を降れば小さな砂漠地帯になっており、周辺の者には過酷さと不気味さから
深い森の中にある留置場周辺は放置された死者が甦り徘徊している。そのアンデット達や薄暗い場所を好む獣や巨大昆害虫は近年に増加する一方である。
錆びて使い物にならなくなった剣を突き刺した簡易的な墓標を見たシュシアは脅える。
幼き頃より言い聞かされていた此処の恐ろしさは脳裏に焼き付いているからだ。
「ここ……デスロードですよ……。他の道ならあちますよ?」
辺りを落ち着きなく見渡すシュシアがそう言うが、ゼロは何も反応は示さない。あくまで此処に用があると言う様に迷いなく進む。
ゼロは冷たい風が吹く暗い森の入口の前に来ていても、脅えることも戸惑うこともなく平然としている。ただ、その目は刃のように鋭い。
森の中は所狭しと生い茂る木々と、戦火の名残である打ち捨てられた馬車や鎧で溢れていた。
徘徊する
ちなみにもこべえはちゃっかりシュシアの肩に乗っている。
シュシアはゼロに話しかけて恐怖を紛らわせようとするが、何の反応も返してくれないので溜め息を吐いた。
ここまで寡黙なものかと、必要以上の事は話さないのかと、危険地帯に馴れていないシュシアは思う。
本来危険地帯に足を踏み入れて呑気に話す方が愚かなのだが、そんな狩場の常識は学んでおらず、無縁な生活をしていたために仕方がない。
敵と遭わずに歩いていると、やがて留置所なのだろう鉄の格子が目立つ廃墟が見えてきた。
今や天井は崩落し、雨風を防げぬ嘗ての檻。
(空気が冷たい……)
寒さすら感じるこの場所は風の音に混じって虚ろな声が聞こえてくる。
(死霊の呻き声も聞こえてくる……すごく怖い)
シュシアがそう心の中で呟く一方、ゼロは顔色一つ変えないでペースを保って足を進める。
どうしてゼロは何も変化を見せないのだろうとシュシアは疑問に思う。
もこべえはただただ震えて何も考えてない。
ゼロの周りは冷たい空気を切るような張り詰めた空気が漂っている。怨念という目に見えぬ敵をその空気で切り裂きながら、敵意を殺意で切る。
そして森の中央、僅かに差し込む光が光源である為にかなりの暗さである断頭台のある広場に辿り着いた。
「ここが噂の……」
呟くシュシアがいる広場の周囲には歪な形をした雑木林に墓石が乱雑して立っている。
断頭台の他に崩れた建物の壁や地面に突き刺さる折れた槍、かすれて見えなくなりながら風に抵抗することなく煽られる旗。
寂しさが漂い、温もりを求めて寄ってくる死霊が近付いてきていることが来訪者に分かる。
「アワワワワワ……」
もこべえがシュシアの後ろを見ながら凄い早さで震えたていた。
「どうしたんですか? トイレに行きたいんですか?」
シュシアは微笑んでもこべえに話しかけるが、
返ってきた返答は予想外なものであった。
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