第2話 黒影——黒き先触れ
ドラゴンの攻撃に対して黒は上空へ跳びつつ身を回転させ、一匹の尾を断ち切る。竜の尾はトカゲのそれとは違い頑健である筈だが、綺麗に輪切りにされた。
切断された尾は地面に何度もバウンドし、仲間の竜の火に焼かれた。
黒は空中で大鎌を振り上げるように構える。
腕の間から見える不気味な赤い瞳は鮮血のように紅く、狩の眼をしていた。
ドラゴンの火炎攻撃が黒を捉えるには遅すぎて虚しく終わる中、黒い軌跡を描く大鎌は必殺の一文字を描いた。
大鎌の刃は鱗を斬り、筋肉を喰い、骨を断つ。
横一線の鮮やかな一撃が二頭のドラゴンの肉を切り裂き、首を奪った。
また、首が落ちた。噴き出る生きていた証、精製すれば薬にもなると云われる血が、落ち葉を紅葉に変える。
その最中、仲間の死を悟った一匹のドラゴンが、仲間の死骸ごと敵を焼却せんと
灼熱の球体が、未だ宙空にいる黒へと飛来する。
羽を持たぬ人類は、宙で移動する手段を持たない。
しかし黒は
しかし風の刃というよりは速すぎる。それはまるで粒子が集合した闇色の
恐ろしい刃だった。
その刃が通り過ぎて、灼熱の球は二つに割れて起爆する事なく、静かに霧散した。
その間に黒はドラゴンから吐き出される炎を左右に避けながら素早く間合いを詰め、一匹のドラゴンの長い首の横に移動。大鎌を上向きに構えた。
吐き出されていた火炎の息吹により、落ち葉の積もる地面は引火して燃え上がる。当然猛禽類程ではなくとも圧倒的に優れた動体視力によってドラゴンは辛うじて黒を追えていて、火炎球を至近距離で撃って爆破した。
その炎は黒を包み込む。
しかし黒は炎を無視し、何も反応を見せずに大鎌を反時計回りに振り上げた。
追っていたのは
僅かに
燃え上がる地面にまた一つ、最後の首が落ちた。
その時計の針のように死を刻むこの化け物、シュシアは一目でこの人物こそが噂の死神だと理解する。
ドラゴンを刈り尽くした死神は大鎌に付着した血糊を払い、何もない虚空へと大鎌を消した。
その言葉が似合う化け物だった。
黒いキャップ帽を目深に被り、ベルト状の襟が鼻から下を隠しているために顔は見えないが、新雪が如く強い白の髪と肌からして、浮世離れしている。
膝まで丈が長く黒い外套に身を包み、腕に三つ程ベルトを巻きつける華奢な体の男性。
さらに黒いブーツと黒いズボンを履くので、白金の髪と真っ白の肌以外ほとんど真っ黒だった。
この物々しい黒は見る者に謎と恐怖を植え付ける。
ただシュシアは解っていた。
シュシアに攻撃が行かないように立ち回り、森林にダメージがいかないように攻撃を搔き消すなどしていたのだ。
現に今も暴風を起こして山火事を防いでいる。
シュシアはそんな謎へ歩み寄り、緊張しながら口を開いた。
「あの……すみません」
シュシアが話しかけると、死神が視線を素早くシュシアにずらした。
「助けていただきありがとうございました その……私はシュシアと申します……よければあなたの名前を教えてください」
あちらこちら堅いシュシアの言葉に、死神は少し間を置いて隠されている口を開いた。
「ゼロ」
素っ気なく紡がれた自己紹介。
「ゼロさんですか——……ッ!?」
死神の名前を口にしたシュシアはいきなり起こる激しい頭痛で座り込んでしまう。
これまで起きた事もない程に激しく、立っていられない程に
奇妙な痛みに、気が遠くなってくる。
「ああ……ぁ……」
激痛が頭の中に広がっていく。
あまりの痛みにシュシアは冷や汗をかきながらその痛みに耐えていた。
薄れていくシュシアの意識の中、ゼロの姿が目に映る。自然に溢れたこの場所に、不自然に黒い存在、ゼロに何かされたのだろうか。
「くぅ……ぅ……」
苦し紛れにゼロへと手を伸ばすシュシア。
しかし、限界に至ったシュシアは目の前が暗くなり、その意識を手放した。
伸ばした腕が力無く落ちる。
伸ばした腕は黒い腕によって受け止められていた。
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