050話ヨシ! ご安全への道

お子様たちのトレーニングは、徐々に負荷をを上げる事にした。


最初の1週間は『ランニング』と 『オーラの集中』 の二つだけ。

同じメニューをひたすら続ける、『らし』の期間 だ。


2週間目から、ちょっと『ランニング』の負荷を上げる。

1kmから、1.2km、1.5km、1.7km、2km、………と距離を伸ばしていく。

1ヶ月後には、ランニング距離3kmまで到達した。


ひとまずランニングは、それで頭打ち。

時間があるなら、もっと走らせてもいいんだけど。

カラダ全体が鍛えられて、さらに体力スタミナがつくっぽいし。



しかし、俺たちが幼年学校が終わって家に帰るのが、昼の3時くらい。

みんなを夕食の5時くらいに帰宅させる事を考えれば、訓練時間は1時間半しかない。


準備運動で、10分。

ランニングを、15分。

途中休憩が、5分×3~4回。

訓練終わりの柔軟ストレッチで、また10分。


残り時間は、30~40分くらい。


3人それぞれ10分ずつオーラ練習を見ていると、1日のトレーニングが終わってしまうというキツキツのスケジュールだ。


なお、『オーラの集中』の訓練は、押さえなしデコピンのはじく指を、毎日変えていく。

色々な場所にオーラを集中する事に慣れるためだ。


両手の指を3巡もすれば、みんな、素早く集中できるようになってきた。





▲ ▽ ▲ ▽



訓練2ヶ月目。


トレーニングメニューに 『うんてい』 と 『パンチの訓練』 を追加。

他の子がオーラの練習している間は、この2項目をやらせるようにした。


というか、『パンチの訓練』 はマッシュが勝手にやり始め、それを他の2人がマネしはじめただけなんだが。

いつの間にか、訓練メニューに入っていた。


最初はみんな、俺の作った巻きワラもどき(布を巻いた立て札みたいなヤツ)へ拳を叩き込んでいた。


俺やマッシュは、もう慣れているので、なんの問題ない。

というか多分、俺たち武門の子は、手の皮とか厚くて丈夫なんだろう。



「まあ、ある意味サラブレッドみたいなもんだしな、俺たち……

 先祖代々、戦闘のプロの一族とか」



そう考えれば、納得だ。


だが、非・武門組2人は、手に擦り傷をつくるようになった。

俺は、即中止させて、改善策を考える。


ケガする訓練とか、バカらしい物もない。

ブラック企業に勤務歴のある俺からすれば、『根性で乗り切れ』 みたいな話は大っ嫌いだ。


だから、お古の球技ボールを拾ってきて、木の杭に縛りつけた。

非・武門組2人のために作った、簡単工作のパンチグボールだ。


フォルもタードちゃんも、思いっ切り叩けて嬉しいのか、毎日ドガドガ殴っている。



── あ、あと。

うちの姉さんもたまに殴っている。

ストレス発散になるみたい。



「あの、バカはぁっ ほんっと、いっつもっ、どうしてぇっ」



鬼気迫る表情でドガドガやってるので、たまに怖い。



(……姉ちゃん、何がそんなにストレスなんですか?)



それはともかく。

『オーラの集中』の訓練の方は、押さえなしデコピンを、指2本へ難易度アップ。

少しオーラが増えてきただろうから、ちょっとずつ消費量も増やしていくつもりだ。





▲ ▽ ▲ ▽



訓練3ヶ月目。


そろそろ、みんな良い具合に、身体が出来てきた。

最初は、ヒーヒー言ってたタードちゃんも、ゼーゼー言ってたフォルも。

今では、しっかり俺とマッシュに遅れないように、ランニングできるようになった。


フォルとか、ちょっとポッチャリ気味の体格が、だいぶんスリムになってきた。

さらに最近は、自主的に 『うんてい』 の量を増やして、筋力アップに余念がない。

どうもクラスの男の子に腕相撲を挑まれ、返り討ちにした事で自信が付き、ヤル気がでたらしい。


── 良い心がけだ。



器用なタードちゃんは、3人の中で一番のスピードでオーラ技術を高めている。

最近なんて、両手の指に同時にオーラを集中するとか、他の2人が手こずっている事もマスターしつつある。


ただ、女子の身体の構造上、腹式呼吸が苦手っぽい。

その欠点克服に、肺活量を増やそうと、毎日自宅で大きな声で歌っているらしい。


── 良い心がけだ。



マッシュは、まあ相変わらずだ。

俺以外の友だちというか、毎日フォルやタードちゃんとしゃべるようになったせいか、荒っぽい言動が落ち着いてきた感じがある。

特に、非・武門組2人に先輩風ふかせて面倒みたりしているので、ちょっと物腰も柔らかくなってきた。



「アット君、きみならやってくれるって、先生信じてたっ

 マッシュ君も最近は、だいぶんクラスに打ち解けてくれて!

 子どもたちは純粋だから、ちゃんと話せばわかってくれるんだね!

 教員試験は大変だったけど、やっぱり幼年学校の先生になって、本当によかったっ」



なんか担任の先生に、やたら感謝された。

『そう言えばそんな話もあったな』 と、後になって思い出したくらいだったが。



そんな形で、秋から始めた俺のオーラ教室は、順風満帆。

季節は真冬になり、冬将軍を迎える頃になってきた。





▲ ▽ ▲ ▽



「さて、問題は俺なんだよな……」



みんなも慣れてくると、今日の訓練メニューを勝手にやってくれるようになった。

おかけで俺も、ちょくちょくとヒマな時間ができるようになった。


俺は、その空き時間を、ようやく新技の開発につぎ込めるようになった。

だが、秋のイモ掘りで、クマ型魔物の使った煙幕輝甲の再現には、なかなかたどり着かない。



「ポツポツ、雪が降ってきてるなぁ……」



この辺境都市は雪が降るが、積もってもせいぜい20~30センチくらい。

元気な子どもからすれば、特に気にせず遊べるレベルだ。


現に俺たちも、我が家の庭先で、相変わらずなオーラ教室の最中だ。



「雪か……

 確か上空では、雨も雪もすべて氷なんだよな」



水蒸気が昇気流で、上空へ。

上空2,000mくらいで冷やされると、水滴や氷になって集まり雲になる。

その雲の上の方にある氷の粒が、溶けないまま落ちてくると、雪として降り積もる。


そんな、薄れかけた前世の義務教育の知識が、頭をよぎる。



氷。

細かな粒?

気圧が低下?

集まったら雲になる?



── あれ、この方法ならいけるんじゃね?


俺はそう思って、一つの方法を試してみる。





▲ ▽ ▲ ▽



「アット~、そろそろオレのオーラ練習、みてくれよぉ」


「アット君、ボクもお願いします」



そんな声が聞こえたが、集中している俺は、一旦無視する。

ちょうど、まさにコツが掴めそうな感じなのだ。


後回しにしてくれ。



「── フッ……!」



俺は、気合いの息と共に、駆け出す。

身体強化した上で、全速力だ。



「あ、あぶねえっ」 「アット君、かべがっ」



横幅20mくらいしかない、我が家の庭は、3秒もなく端までたどり着く。


そして目の前に、煉瓦ブロックを積み上げた壁。



「はぁああっ」



俺は、気合いと共に、両手を前に。

同時に、両手に蓄積していた、輝甲化寸前のオーラを放出。


そう、放出だ!

これが一番の難題だった!


しかし、事前の練習通りに、それは上手くいく。


目の前に、黄色の雲のような、煙の塊。

頭から突っ込んだ瞬間は、まるで『干してある羽毛布団』 にぶつかったような感覚。


全身に柔らかい物が絡みつき、一気に身体の自由が奪われる。

それと同時に、壁に激突するほどの走力も吸収され、拡散される。


まるで、水の中を走ろうとしているような、不自由感と、浮遊感が纏わり付く。


数秒して、周囲を確認。


衝突するはずだった煉瓦ブロック壁の、1mくらい手前で、しっかり立ち止まっている。



「いやっほぉぉっ 成功だ!!」



ねんがんの げんすいりょくダンパーをてにいれたぞ!


脳内に流れるアナウンス(妄想)に、俺は小躍りを始めるのだった。

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