051話ヨシ! DBハラ? 何の事か解りませんね

さて、ちょっとオーラと輝甲の特性を思い出してみよう。



(1)オーラは砂鉄、肉体は磁石みたいな関係で、くっついて離れない

(2) 輝甲は肉体から離れたら、数秒で溶けるように消える


この二つの要素を、クロスさせると、こうなる。


● 『オーラ』自体は肉体から『離れない』が、『輝甲は肉体から離れ』る。


『輝甲』 ── つまり、オーラの固形化という処理工程プロセスたら、オーラ放出技ができるという事だ。




そしてもう一つ。


(2) 輝甲は肉体から離れたら、数秒で溶けるように消える


これを裏返すとこうなる。


● 『輝甲は肉体から離れ』ても『数秒』は保つ。



つまりだ、──




「── あの、ごめん、アット君……

 なんの話しているか、よくわからない」



フォルが、難しい顔で額に手をやる。


何それ、と言われたので説明してたのだが……。

……まあ、オーラ初心者さんに専門的知見な説明しても解るわけないか(得意顔ドヤぁ)。


俺はそう気づいて、詳細説明をすっ飛ばす。



「結論から言えば、この雲みたいなモヤモヤは、輝甲の一種なんだよ。

 そしてドロドロの油みたいに絡みつく性質がある。

 だから、石を投げても、ホラこのとおり」



俺は、雲状のモヤモヤ輝甲へと、野球ボールくらいの石を投げ込んだ。

黄色いモヤが石をからめとり、スピードを急減速させる様子をみせつける。



「……ゴメン、やっぱりよくわかんないや」



すると、マッシュが口を開いた。



「このまえの魔物のアレだろ、『武器よけのコート』 。

 でも、そんなの何につかうんだ?」


「そりゃあ ──」



俺はしゃべりながら、薄れかけた雲状モヤモヤ輝甲に振り返り、再度発動させて補充する。


── 先ほどと同じように、両手の平にオーラを極限まで圧縮

── 高密度のオーラを一気に拡散させて、低密度状態で大きく広げる

── これは【鉤縄】を長く伸ばす時と同じ要領だ

── そこに半熟輝甲ゴム状化のオーラ変質を加えれば……


俺の手の平から、半気体状の輝甲がスプレーのように吐き出される。

黄色い雲のようなモヤモヤが、直径2mの球状に立ちこめた。


俺は、振り返りざまに、【身体強化】を発動して、一気に跳び上がる。

前世の陸上競技でいうところの 『背面跳び』。



「── こうやって、クッションにするんだよ」



背中から落ちる俺を、雲状モヤモヤ輝甲が勢いよく散りながらも、ウレタンマットみたいに受け止めた。


正確には、90%以上の落下の勢いを減衰させただけ。

だが、傍目には『雲をベッドに寝そべっている』ように見えたと思う。



「うおっ スゲー!」 「すごい、楽しそうっ」



マッシュとフォルが歓声を上げる。



「何なに、どうしたの?」



ひとり自主練習をしていたタードちゃんが、覗き込んできた。





▲ ▽ ▲ ▽



それからしばらくの間、俺はご機嫌だった。

念願だったクッション代わりの減衰方法ダンパーを手に入れた。


── 『1メートルは、いち命取めいとる』

そんな安全標語もある。


安全対策はとても重要なのだ。



(また今世も落下事故で死ぬとか、冗談じゃないからな……)



これでようやく、開発途中で棚上げしていたオーラ新技に、心置きなく着手できる。


その脚部輝甲の改良も、なかなかのアイデアが出た。

賢いタードちゃんが、いいアドバイスをくれた。


くつした状の半熟輝甲で作った、螺旋バネコイル・スプリングについてだ。

これは伸ばすときに、足の甲やつま先が引っかかるという欠点があった。


賢いかしこいタードちゃんは、


「アット君それ、前の方がひっかかるなら、後ろの方だけ伸ばすとかできないの?」


と、天才的な発想の転換を提案してくれた。


つまり、『くつした状のインナーを、前側と後ろ側で分割しちゃえばいいじゃん』 という事だ。



(……確かに、輝甲の固ゆで部分は、鱗状に分割して接着してるんだ。

 別に、インナーだって邪魔にならなければ、分割しても問題はないよなっ)



やってみたら、問題なく作動した。

防具としての機能にも、差し障りがない。



(── タードちゃん、マジ天使エンジェル!)



前世ニッポンでそうだったから、『螺旋バネコイル・スプリングは円柱形』 という思い込みがあった。

だが、それは単に金属加工の都合でしかない。


ちゃんと作動すれば半円型だろうが弧型だろうが長方形だろうが、別に何型でも問題なかったのだ。


そんな訳で、いくつかのテストと改良の結果、俺の脚部輝甲のジャンプ機能は、ブーツの後ろ半分が伸びて靴底の踵部分ヒールを押し出すという構造になった。



雲クッションの減衰方法ダンパーが、【絡雲からみぐも】。

ジャンプ機能付きの脚部輝甲が、【弾動だんどう】。

そういう技名になった。



ちなみに俺が雲クッションについて、


『これマジでキントウンじゃん!

 名前とかもう、キントウン以外ないだろっ』


と熱いプレゼンテーションを続けたんだけど、


『しらねー』 『何それ』 『キン・トウン? ちょっと言いにくい名前だね』


と、幼児3名には、全会一致で却下されてしまった。



(ドラゴン●ールを読んでないとか、人生ソンしてるんだよ!?

 まったくっ、これだから最近の異世界人わかいやつはダメなんだよ!)





▲ ▽ ▲ ▽



そんなトントン拍子に進む、アット君のオーラ教室。

しかし、そんな時ほどトラブルが起こる物だ。



── 最初は、フォルが風邪ひいたという話だった。


『冬の筋トレは、汗が冷えやすいから、気をつけないとなー』 とか考えた。


俺も気をつけよう、くらいの感想だった。



── 次は、マッシュだった。


『あのバカでも、風邪ひく事あるんだなー』 と逆に感心した。


ひょっとしてインフルエンザとかかな?

手洗いうがいとか、しっかりしておこう、とか思った。



── 最後は、タードちゃんだった。


『さすがに、なんかおかしいな……』 と、いくら鈍い俺でもそう思った。


アット君のオーラ教室のメンバーが、3人たて続けに病休ダウン

しかも、みんな1週間くらい寝込んでいる、と。



(ガチでインフルエンザを感染うつしあったのか?

 それとも……)



俺は、お見舞いという名の尋問じんもんに向かう。

一番口が軽そうなヤツが狙い目だ。


そう、ちょっと褒めたら何でもしゃべっちゃう、おバカなマッシュ君だ。



── 最近、お前なんかイイ感じだよな。

マッシュもタードちゃんもほめてた。

学校でも人気者じゃん?

すごいすご~い!



みたいな雑な褒め方で十分だ。

適当におだてておけば、簡単にゲロった。



「── で、倒れた原因って何だったんだ?」


「いやー、じつはー

 アットに隠れて、3人でこっそりオーラの練習しててさー」



ちょっとイタズラした、くらいの表情のマッシュ。

俺は、その真剣味のなさに、イラッとした。


オーラ=生命力なら、使いすぎは命に関わる。

俺やマッシュみたいなオーラ兵士サラブレッド家系ならまだしも。

フォルやタードちゃんは一般家庭の子なんだから、特に注意が必要だ。



「アホか、テメーら!

 あんだけ散々ヤるなって、言ったろうが!」


「なんだよー、いいじゃんか!

 毎日毎日きそきそきそって、おんなじコトばっかりっ」


「そりゃそうかも知れないけどっ

 基礎って大事なんだぞ、ケ●イチの師匠もみんな言ってるっ」


「誰だよ、ケ●イチって」


「史上最強の弟子だよ!」


「しらねーー!」



打ち切りっぽいが名作だぞ!

週間少年サ●デーくらい読め!



「だいたい、アットだけずるいっ

 オレたちにタイクツなコトばっかりさせて!

 それにアットは雲つくってポワンポワンしたり、ビュンビュン飛び回ったりっ」


「あのなぁ、『いちメートルは、一命取る』って ──」


「── だから、そんなのしらねーって!」



高所なめてると落命らくめいするぞ!

作業の安全テキストくらい読め!



「アットだけず~る~い~!

 オーラ教えてくれるっていったのに、ぜんぜん教えてくれないしっ

 ずるいずるいず~る~い~!!」


マッシュ、半泣きでベッドで暴れる。



(── ガキか、テメエ……っ)



そう言いかけて、俺は思い出した。



(そういやコイツら、リアル6歳児だったんだ……)



こらえ性がなくても、飽きっぽくても、なんら不思議じゃない。

普通の幼児だったんだ。

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