オーラ教室

049話ヨシ! お庭でオーラ教室

さて、そんなこんながあって。

アットくんで、『こどもオーラ教室』 が定期開催される事になった訳だ。



最初のトレーニングは、『ランニング』 と 『オーラの集中』 の二つだけにした。


ランニングは1km。

我が家の周りを軽く流す程度。


正直、トレーニングという程度でもない。


俺たち武門の子のうきんからすると、準備運動程度のかるい運動量。


前世の世界基準で考えたって、やっぱり軽め運動だ。

多分、小学生低学年向けの 『こどもサッカー教室』 でも、この4~5倍は走る。


だが、一般のご家庭のタードちゃんや、運動苦手なフォルが居る。


だから、これは実質は体力測定だ。

結果を見て、これからのトレーニングメニューを決めるつもりだ。



── すると、案の定の結果になった。



ハアハア、息が切れてる、タードちゃん。

体力は△。

普通です、もうすこしガンバりましょう。



ゼーゼー、喘息みたいな息しているフォル。

体力は×。

これからいっぱい努力が必要です。



「アット、これだけ?

 これだけ?

 なあなあ、これでおわり?」


と、元気がありあまってウルセーのが居る。

もちろんトサカ髪の幼なじみ(♂)、マッシュだ。

ソイツだけ休憩時間を返上で、『うんてい』をさせておく。


ウッキーウッキーとさけばんばかりの勢いで、何十往復もしている。

サルか、テメー。





▲ ▽ ▲ ▽



非・武門組の2人が回復するまで、10分くらい休憩。

フォルとか、休憩時間が終わっても、まだ足がガクガクしている。


なので、仕方なく全員座っての講義。



「は~い、みんな、こっちで円になって座って~」



俺は、建物の影になった場所に座らせ、1m間隔くらいの円陣をつくらせる。


『オーラの訓練』 のレッスンワン ── のさらに手前、レッスンゼロだ。



「まずは、デコピンの練習をします」


「はぁ……?」



と、トサカ髪が不満そうに声を上げる。

お前なあ、いいから見とけ。


もちろんデコピンってのは、アレだ。

人差し指を曲げて、親指で押さえて、ピンッと弾くやつ。


クシャクシャに丸めた紙袋をボール代わりに、デコピンでサッカーだ。

かるい紙袋ボールは、6歳児の力でも30~50cmくらいは飛んで転がる。


2~3回くらい弾くと、他の子のところに届く。


うんうん、予定通り。

良い感じだ。


全員にパスが一巡して、紙袋ボールが俺の所まで戻ってくる。



「アット、何これっ」



こらえ性のない幼なじみサル(♂)は、早速イライラしている。

いいから見とけって、まったくお前は。



「次に、親指で押さえをナシで、デコピンします」



すると、途端に勢いがガクンと落ちた。

『ピシッ、ピシッ』 が 『ポスン、ポスン』 になった。


ボールの転がる距離も半分以下になる。

2~3回弾いたら他の子に届いてたデコピンのパスが、5回以上に増える。



「アット君、これ、ぜんぜん飛ばないんだけどっ」



指の力が弱いらしいタードちゃんは、特に回数がかかる。



「さて、みんなお楽しみの、オーラの出番です」



俺は、右手人差し指に、オーラをまとわせる。

日影なので多少はオーラの光が見やすいだろうが、さらに解りやすいように、ひときわ大きく松明たいまつみたいにオーラを集中する。


俺の、親指抜きのデコピンが、ピシ!、と空気を裂く。

飛んだ紙のボールも、バスッ、と手で投げたくらいスピードが出る。

一発で、マッシュの胸元へ届いた。



『── おおぉぉぉ……っ』 と、3人から驚きの声。



「ソレどうやるんだっ!?」



マッシュが、勢いよく立ち上がる。

俺は、脳筋幼なじみ(♂)に待て待てステイ、と手で合図して、説明を続ける。



「みんな、フォルのお姉ちゃんのところでオーラを検査した時。

 ちゃんと、俺の言った通りやったか?」



すると、非・武門組の2人、フォルとタードちゃんが順に答える。



「── うん、ちゃんと最初の10秒だけ手の平でさわったよ」


「あとは、人差し指で、何回も『ちょん、ちょん、ちょん』ってするんでしょ。

 それで、ツラくなる前にやめるんだよね?」



ちゃんと言われた通りにヤるか不安だったマッシュにも、その通りやらせたらしい。

俺は、グットジュブGJと、右手の親指を立てる。



「OK、OKっ

 ── その時、指先がなんか引っ張られながら、ピリピリした人ぉ?」



俺の問いかけに、3人とも手を上げる。



「よーし、じゃあ、その時の感覚を思い出しながら、指先に集中してみて」



俺は、そう言うと同時に目にオーラを集中し、【瞬瞳しゅんどう】を始動。


一番最初に出来たのは、タードちゃん

女の子は発育が早いから、イメージ力も高いのかもしれない。


少し遅れて、マッシュ。


俺は、ポケットから紙ボール出して、二人の前に置いて弾かせる。

タードちゃんもフォルも、1m以上は紙ボールを飛ばしてみせる。


「できたぁっ」


「やりぃっ!」


調子に乗ったマッシュは、何度もピシピシと、ボールを弾き続ける。



「おい、マッシュ!

 あんまりオーラ使いすぎると、ゲロ吐くぞ!

 そろそろ止めておけっ」



そう注意しても止めないのが、ワンパク悪ガキのマッシュ君である。


庭の端っこにで、ゲーゲーしはじめる。

言わんこっちゃない。





▲ ▽ ▲ ▽




俺は、マッシュに水を飲ませて、木陰こかげに寝させる。

うるさいのが黙って、他の子をみるのにちょうど良かった。


── さて、上手くいっていないのが、フォル。


俺は、彼をThe禅ザゼンスポットに連れて行く。

一緒に、庭の台形の石の上の座り、足を組んで、目をつぶるように指示する。



「フォルは焦ってるみたいだから、ちょっと深呼吸して落ち着こう。

 はい、鼻から息を吸ってー、吸ってー、お腹を膨らませてー。

 限界まで吸ったら5秒間、息を止める、苦しいけどガマンして、息を止める。

 1・2・3・4・5。

 ── はい、今度は口から息を吐くっ お腹をベッコリへこませる」



運動に慣れてないと、腹式呼吸ができないので、ついでに教えておく。


あと、鼻から空気を吸うクセも、大事。

口だけの呼吸は楽だけど、すぐ口が渇く。

運動する時は、鼻から吸って口から吐くのが基本。



(呼吸は大事!

 鬼●隊も言ってたからなぁ……ウ■コダキさ~ん!)



バイクやクルマの燃焼機関エンジンと思えば、解りやすい。

吸引口や排気口に問題があったら、100%の性能が発揮できる訳がない。


パソコンや電子機器だって、そうだ。

通気口がホコリで詰まったら、故障の元だ。


フォルは、複式呼吸を何回も繰り返していると、表情が落ち着いてきた。

今度は、目をつぶらせる。



「じゃあ、ゆっくり、この前の事を思い出そう。

 オーラ計測器に触って、指がピリピリした感触。

 身体の中らから何かを吸い取られて、ちょっと気分が悪くなった時の事。

 ソレを思い出しながら、利き手の指に、意識を集中っ」



俺は、片目をあけて、ちょこちょこと【瞬瞳しゅんどう】で様子を伺う。


文学少年の黄色いオーラは、点いたり消えたりを繰り返し始める。

ポワン……ポワン……、とホタルみたいな感じだ。

あるいは、電池の切れかかった懐中電灯みたいな感じ。



「よし、もうちょっとだ、ガンバレっ」



フォルが額に汗をかきながら、何分か続けていると、オーラの薄い光が指全体を包み込んだ。


俺はすぐに、彼のあぐらを組んだ足の上に、紙ボールをのせてやる。


フォルは、ピンッ、と人差し指で弾く。

丸めた紙の球が、大きく弧を描いて飛んだ。



「── で、できた……っ

 ……本当に、ボクにもできるんだっ」



文学少年の瞳が、感動で潤む。



「アット君、ありがとう……っ」



満面の笑顔に、俺は親指立てた右手で応じた。

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