友だちの輪

043話ヨシ! 次の次の訓練のために


「確か、コートとか言ってたな」



俺は、いつものように、庭石の上で 『The・禅ザゼン』 を組みつつ、物思いにふけっていた。



(この前のクマ型魔物の使っていた煙幕。

 あの減衰力げんすいりょくかせば、クッションやパラシュート代わりになるんじゃね?)



端的に言えば、そういう発想だった。


── コレ使えそう。

この前、そう思った瞬間に【瞬瞳しゅんどう】を開始して、目に焼き付けていたので、後は再現するだけだ。


術の特徴としては、粘質な機械油だった。

だが、オーラを見た印象は、薄くて細かい輝甲。



「薄い、輝甲……

 もしかして、密度の問題か?」



そう思い至った俺は、オーラの密度を下げながら輝甲への変化を試してみる。


そんな試行錯誤が、お隣男児の乱入まで続くのだった。





▲ ▽ ▲ ▽



「アットだけ、ズルいっ」



開口一番、コレである。

今日もトサカ髪型がピシッと決まっている、マイ幼なじみ(♂)・マッシュ君だ。



「いや、ズルいの意味がわからん……」



俺は、夕食前の修行タイムを邪魔されて不機嫌なため、雑な対応をする。

いつもなから、こう適当に相手をしている内に、きてどこかにいくのだが。


最近はやたらと、手強い。



「手がビューンと伸びるしっ

 こ~んな岩とか投げるしっ

 魔物とかなぐるしっ

 倒すしっ

 ずるいぃ~っ!」



俺がご機嫌な時なら

『オウフぅッ、拙者ぁオーラ修行者でござるのでぇ! デュフフフフぅッ』

とか軽く自慢するのだが、せっかくの新技のヒントがゲットできた時にやられると鬱陶うっとうしくたまらない。


楽しみにしていたゲームやTV番組見ている横から、アレコレ言われている感じだ。

『うるせえ、黙れ』と首根っこつかんで放り出したい。


だがそんな事をしたら、このお隣っ子(♂)はすぐに癇癪かんしゃくを起こす。

それは色々面倒だ。


骨折が治ってスグに、魔物なクマさんと森で出会ったばかりだ。

家族から 『しばらく大人しくしておけ』 という無言の圧力をビンビン感じる。

最近は、姉さんだけじゃなく、ママからも監視されている気がする。



だが、俺がマッシュを口先で煙に巻こうとしても、



「ずるい、って言われてもなあ。

 マッシュだって、『そんな事しても強くなれない』とか言ってたろ?」


「あれは……パパがそう言ってたし……」


「そんな一見ムダな修行の結果!

 なんとアット君には、不思議な力が目覚めたのです!」


「うそだ!

 オレだって、こっそりアットのマネしてたけど、そんなのゼンゼン目ざめないぞ!」



このように、意外と理論派でだまされてくれない。

こんな所ばかり、ムダに文武両道エリートなマッシュパパの血を感じる。



「ぜったいアットは、オレの知らない何かをして、オーラの使い方おぼえたんだっ」



しかも結構鋭い。



(つーか、マッシュ君はひそかに、俺のマネしてトレーニングとかしてたのか……

 う~ん、やはり女子でない事が悔やまれる 『残念幼なじみ』 よなぁ……)



ねえ、転生神かみさまぁ。

マッシュ君の代用品コンパチ的に、双子の妹 『マーシュちゃん』 とか実装してただけませんかね?

ヒロイン不足になげく今の俺なら、トサカ髪のマッシュ君を 『お義兄にいさん』 呼ばわりするくらい、ワケないんで。



「いいかい、マッシュ君。

 ……実は俺、今まで隠していたけど、生まれつきオーラが使えるミラクル天才ボーイだったわけで……」


「うそだ。

 アットが鼻をザリガニにはさまれた4歳の時は、そんなの使えなかったっ

 二人で、ガンバってザリガニひっぱったし」


「………………」



そういや、あったな、そんな事。



「教えてくれないなら、うちのパパとアットのパパに、ホントのこと言いつけてやるっ

 あと、アットの姉ちゃんにもっ」


「姉ちゃんは止めろよっ

 姉ちゃんは関係ねーだろっ」



うっかり、反応してしまう。

反応したら負けだ。


流石は、マッシュ君。

相手の嫌がる所をピンポイントで突いてくる。

近所のちびっ子から、『意地悪お兄ちゃん』 として嫌われるだけの事はある。


うちの姉ちゃん&お隣の姉ちゃんコンビに

『あのバカ弟ども、今度は城郭外で死にかけたですってぇっ』

と、半ギレで説教されたばかりだ。


そして泣かれた。

ダブル姉ちゃんに、泣きながら抱きしめられた。

俺が、目的のためには手段を選ばない 『反則上等、掟破りのオーラ戦士』 だとしても、さすがにダメである。


男は、女の涙に勝てないと思い知った。



「だったらアット、オレにもアレ・・教えろよっ」


「……わかったわかった」



俺は、ついに根を上げる。

あのイモ掘りの日から1週間、こんなのが毎日だ。


修行を邪魔され続けて、俺もこたえてきた。


それにマッシュの 『こっそりアットのマネしてたけど~』 という台詞に感じ入ったところもある。

筋トレ仲間が増えるのは、大歓迎だ。



── なにより、地道な努力は報われるべきだ。



前世の工場勤めで 『資格とったら手当付ける』 と言われたから必死に勉強したのに、

『えっ手当? 資格の試験費用は会社で出したからノーカンね』

とか言われたトラウマとかも思い出す。


ブラック経営者は、×ね!

と、異世界より恨みを込めて。


それはさておき、俺はマッシュに向き直った。



「ただし、1個だけ条件がある ──」



そう言って、マッシュに交換条件を突きつけたのだ。





▲ ▽ ▲ ▽



それから4~5日過ぎた、ある日。



「アット、みつかったぞっ」



お昼休みに、マッシュが教室に駆け込んできた。


マッシュが教室に勢いよく入ってくると、クラスメイト達は、ササッと顔を背ける。

入学から半年の間、ずっとこんな感じのあつかいだ。



(……うむむ。

 マジで嫌われてるな、コイツ……)



クラスメイト達の極端な反応に、ちょっと残念な気持ちになる。

前世では学校嫌いだった俺が、今世では上手うまくやれている分、いよいよだ。


俺は、食後の筋トレ ── イスの座面を掴んだ『脚前あげ』(新体操のL字ポーズ) ── を止めて、マッシュの方に歩いていく。



「じゃあ、ちょっと話に行ってみるか……」


「ああ、何が何でもいうコトきかすっ」


「いや、無理強むりじいするなって。

 俺、たのごとだって言ってるよな……?」



無闇に気合いの入りまくっているマッシュに、ちょっと不安になる。


『なんでコイツ、グーの手をガシガシやってんの?』

『誰かとケンカする気か?』


そんな周囲の冷ややかな視線が、妙に痛かった。

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