044話ヨシ! 全部あいつのせいです、あいつがやりました



マッシュに連れられて行った先は、二つ隣の教室。


目当ての相手は、黒板すぐの席に座っていた。

ややぽっちゃり体型で、灰色の髪が長く、6歳児で早くもメガネをかけている。

昼休みなのに、難しそうな本を読んでいる、いかにもな文学少年だった。


マッシュは彼に詰め寄ると、ドンっと机を叩いて注意を引く。



「おい、ちょっと顔かせよっ」



(── おい待て、そこのクソ幼なじみ!

 何おまえ不良な言動ムーブしてんだよ!)



俺は、マッシュの勢いが空回りした言動に、心の中で悲鳴を上げる。

そんな態度で、ちょっとアレなたのごととか、いよいよ厳しくなるだろに。



「ぼ、ぼ、ボクに、ななな何か、用ですか……?」


「いいから顔かせって言ってるだろっ」



いきなり目の前にトサカ髪のヤツが出てきて、にらめ付けられたら、誰でも怖い。

前世の俺なら、自発的にその場ジャンプしちゃう所だ。

(※ 伝統派不良生徒ヤンキー小銭募金カツアゲ方法)



「ななな、なんの要件か、こここ、ここで言ってくださいいい……っ」


「いちいち、うるせえんだよっ

 来るのかこないのか、はっきりしろっ」



いや、来ないだろう、普通。

そんな脅し文句言われて、誰が着いてくるか。



「え、えっと……その……あの……」



相手の少年が、泣きそうな顔で左右を見渡す。

しかし大半の生徒は、火の粉がふりかからないように顔を伏せてしまった。



(ってか、マッシュお前なんでそんなに荒くれてるの?

 荒ぶるのは、そのロックバンドみたいな髪型だけにしとかない?)



あんまりに酷い状況で、ムダに誤解を招きそうだ。

俺は何かフォローしようかと、口を開きかける。


すると、いかにも気の強そうな赤髪ショートの女の子が、机を叩いて立ち上がった。



「── や、止めてくださいっ

 ムルタクメダ君が、こわがってるじゃないですかっ」



ムルタクメダ……いかにもな文官系の姓だ。



(── 日本語訳したら、『小庄司こしょうじ さん』?

 いや、『郷司ごうじさん』 か 『村司むらじさん』 くらいの感じかな?)



そりゃあ、武門の荒っぽさに免疫がないなら、泣きそうになるよな。


最近、武門のマイナス面の塊みたいになってるマッシュは、短気に怒鳴り散らす。



「なんだよ女!

 俺にサシズするんじゃねえっ

 文句があるなら、アットそいつにいえよっ」



マッシュは、急に教室入り口で立ちくしてた俺を指差す。

すると、気の強そうな女子が、こっちを見て青ざめた。



「── ひ、ひぃっ

 え、エセフドラ君……っ!?」



(── え、えぇ……っ!?

 ちょっと、そこの赤髪の女子ぃ?

 なんで俺の顔見て、『ひぃ』、とか言いますかね?

 俺、君と初対面なんだけど、何かしましたっけ?)



俺は、そんな不満と不安をおぼえる。


途端に、静まりかえっていた教室の中が、ザワザワと騒がしくなった。



「え、エセフドラって、4組の……!?」

「入学してすぐに、上級生をブっとばしたヤツだっ!」

「この前も、こわい先輩5人と、1人でケンカしたらしいよ」

「それで、先輩全員が、ボコボコにされたんだって!」

「この前の収穫実習イモほりのときも、ひとりでマモノたおしたとか……っ」



(いや、まて!

 俺、そんなのやってないぞっ

 ── ……まあ確かに、最後の 『魔物討伐』 だけは事実だけど……)



確かに、何度かワルっぽい上級生とかに、からまれた事もある。


だけどワルっぽいと言っても、相手は10歳くらいの子どもだ。

そして、こっちは中身はオッサンなワケだ。


いくら生意気と思っても、お子様にケガをさせるとか良心が痛む。


だから適当にあしらっている。

『これはイイぜ、回避の特訓になる!!』とパンチやキックを避けまくってる。

そろそろ 『デンプシーロール』 とか身につきそうだ。


それがなんで 『上級生ブっとばした』 とか 『先輩5人ボコボコ』 とかなっているのか。

噂話うわさばなしが、ひとり歩きしすぎだろう。



だが、しかし、何故かはわからない。

マッシュが俺を指差した事は、効果覿面てきめんだったらしい。



「あう、あわ、あうぅ……っ」



文系少年ムルタクメダ氏は、トラと出くわした小型犬チワワみたいな表情。

ガクガクとうなづくと、ギクシャクと立ち上がり、壊れたロボットみたいな動きで俺たちについてきた。



(……なんで、マッシュより俺の方が怖れられてるんだよ。

 このチンピラみたいな髪の方が、ずっとヤバイだろっ

 みんな、絶対、反応がおかしいだろ……っ)



強く明るく優しいハンサムボーイなアット君としては、ひどく納得がいかない。


さらに、俺たちが後にした、二つ隣の学級では、



「フォル君がしんじゃう……っ」

「ヤベーよ、ぜったいヤベーよ」

「これ、センセーに言った方がいいんじゃない」

「でも、バレたら何されるかわかんないよぉ?」



とか【聴覚強化】した耳に、やたら悲痛な声が聞こえてくる



しかも、さっきの強気少女に至っては

『ごめんね、ムルタクメダ君……わたし、無力だ……』

とか、友達が死ぬみたいな悲痛な雰囲気出している。



(── まったく、失敬な。

 ちょっと頼み事するだけだぞ、俺たち)





▲ ▽ ▲ ▽



「む、ムリですぅ……!

 そんのできませぇ~~んっ」



瞬殺で断られた。

ちなみに場所は、体育館裏である。



「なにぃっ

 この、てめぇっ!」


「── だ、だってっ

 そんなのぉ、お姉ちゃんに怒られちゃうぅよぉ……っ」


「コイツ、痛いめみないとわかんねぇのかっ」



マッシュ君、絶賛・不良な言動ムーブ中。



「マッシュ、マッシュ、どうどうっ

 とりあえず、胸ぐらは止めなさい、胸ぐらつかむのは」



俺は、慌てて制止する。

だが、興奮したマッシュはなかなか言う事を聞かない。


そこに駆け寄ってくる、体格のいい男子教師たち。



「おい、そこっ 何やってる!」


「ちぃっ

 おぼえてろよ、お前ぇっ

 ただじゃすまないぞぉぉ!」


「── マぁぁぁッシュぅぅぅ!

 お前、なんてこと口走ってるんだよっ

 たのごとたのごとだって言ってるよなぁ、俺ぇええ!」





▲ ▽ ▲ ▽



── そして、放課後。



「アット君、先生ね、『マッシュ君と仲良くして』 とは言ったけどね。

 ふたりで、他のクラスの子をイジメるとか、そいうのは違うと思うんだよね」


「はい、そうですね……」



何故か、俺だけ、職員室でガチ説教されるという。



エセフドラ家アットくんちペスヌドラ家マッシュくんちも、お国のために働いてこられた立派なおいえなんだからね。

 友達をイジメるとか恥ずかしい事をしたら、ご家族やご先祖様が悲しむと、先生思うの」


「はい、ごもっともです……」



(── ってか、さぁ!

 なんか、みんなさぁ!

 俺が、マッシュの手綱を握ってるとか、勘違いしてない!?

 アイツ、好き勝手に暴れてるだけだからなっ

 俺を黒幕扱いするの、やめてくれないかなっ)



そんな風に内心グチグチと不満を言っていると、先生の目が鋭くなる。



「…………と言うことで、色々な人が力をあわせる事が必要なんだと、先生思うんです。

 ── アット君、聞いてますか?」


「あ、はい、もちろんです……」



半分、聞いてませんでした。

だって、俺、悪くないしな。


張本人のマッシュなんて、先生の呼び出しなんてしょっちゅうなので、軽く逃亡ブッチだ。



(俺さぁ、今、99%、お前のせいで怒られてるんだけど!!

 俺の過失割合なんて、あって1%くらいだろ!?

 悪かった事なんて、暴走するお前を止められなかった事くらいだぞ!)



俺は、フツフツと逃げ足の速い幼なじみ(♂)に、怒りを募らせる。


── マッシュ、てめえ、帰ったら覚えてろよ!

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