041話ヨシ! 森のクマさん(ガチver)


「あぁ、アットぉ~~っ」



俺に気づいたお隣男児は、必死の形相で岩に登ってくる。

鼻水とか涙とかで一杯一杯な顔。

火事場のクソ力なのか、3mくらいのほぼ垂直な岩に、よじ登ってくる。



「ねえアット、どうしようっ

 オレたち死んじゃう!?

 なあ、どおしたらいいと思うっ!?」



お隣男児は、すっかりパニック。

おい止めろよ、ツバを飛ばすな、汚ねえなっ!


俺は、ツバを飛ばし返す勢いで、さけび返す。



「── 『どおしよう』じゃねえよっ

 俺の方が『どうしよう』って感じだよっ

 なんで襲われてるのお前なの!

 俺のヒロインはどこ行ったの!?」


「アット何言ってんのっ

 あれ、あれ、あそこ見ろよぉっ

 ── 魔物がっ! マモノぉっがぁっ!」



マッシュが振り返って、岩のそばまで来た、クマ型の魔物を指差す。

途端に、『ガァァッ』とか威嚇の声が聞こえた。



── イラッ☆ と、きた。



「『ガァァッ』じゃねえっ

 いま大事な話してんだよ、黙ってろ、このぉっ」



俺は、思わずその辺りの子ども大の岩を抱え上げて、川に叩き付けてやる。

爆発したような派手な水しぶきが上がった。


マッシュの熱心に追っかけていた魔物は、驚いたのか後ずさる。


俺はその間に、しがみついてきた幼なじみ(♂)に詰め寄った。



「こういう時ってフツー女子だろ!

 女子が来るべきところだよなっ!

 なんなら水浴び中とかで、ちょっとエッチなシーン挟んでもいいくらいだよなっ」


「……アット、オマエ。

 今なんか、手がビュンって伸びなかった……?

 岩とか投げなかった……?」


「変な髪のくせ女子みたいなピンチ場面しやがってっ

 何お前まさかヒロインという名の男なの!?

 やめろよ、そんな腐った女子しか喜ばないBL展開とかっ」


「いやアットってばっ

 ちょっと、ひとの言うこと聞けよ。

 それに、なんでそんなに女子じょし言ってるの?」



何故こんな状況で、相手が女の子ヒロインでは無いのか。

どういう事ですか、答えてください、転生神かみさま

本当に、そろそろヒロインくれよ!

やくめでしょ、はやくして!



「── あ、もしかして、お前、本当は男じゃなくて……?」



── はっ!?

もしや、マッシュ君が男として厳しく育てられた女子だったりする可能性が!

男勝りな外見で、内心は乙女な女子だったりするんだな!?

OK、そういうの、大好物です!

流石です転生神かみさま



「うわぁ!

 何でいきなり、オレのズボン下げようとすんのっ

 今そんな遊んでる場合じゃないだろぉっ

 はやく魔物から逃げないとぉっ!」


「うるせぇ、チ●コあるか確かめさせろ、オラーっ!」


「アット、本当に何言ってんのぉぉぉぉっ」



── 結論。

やっぱり『お隣のマッシュ君は男幼なじみ』という、誰得な存在で間違いなかったです。

『ええ、男友達と思ってたヤツが、本当は美少女だって!?』みたいなギャルゲー展開はありませんでした。


もうやだ、この幼なじみ。


……ペッ!(唾棄)





▲ ▽ ▲ ▽



「……なぜ、俺はチンコなんて物を、観測してしまったのか……」



圧倒的、客観的観測……!

二つのボールに、一本のバット……っ

ああ、アレを観測するまでは未確定だったのに!

シュレディンガーな可能性を自分の手で……!

俺は、俺は、なんて事を!


宝くじが当たってないなんて解っているっ

だが、番号を確認するまでは、確率は50%50%なのに……っ



「……チクショウ。

 なんかもう、死んでもいい気がしてきた」



俺は、うきうきワクワクの展開をぶち壊されたショックで、凹みまくっていた。

今にいたっては、転生神かみさまを呪う気力すらない。



「いやいや、よくないって!

 アット、アット!

 はやく逃げようよぉっ」



幼なじみ(♂)、涙目。

幼なじみ(♂)、俺の腕を引っ張る。

幼なじみ(♂)、迫ってくる小熊っぽい魔物にガチ泣き。


おわかり頂けただろうか。

全て(♂)オス・マーク付きである。


これが女子なら……、と妄想して、すぐに虚しくなって止める。


代わりに、フツフツと憤りが増してくる。



「クソがぁ……

 ロックバンドみたいなトサカ髪型しやがってぇ……っ」


「……うわぁ、どうしよう。

 今日のアット、いつもよりヘンだ。

 なに言っても話が通じない気がする……」



俺の激怒キレっぷりを見て、マッシュ君がちょっと落ち着いたらしい。

なんか真剣な目を向けてくる。



「── あのさ、アット……。

 最近、オレたちケンカしてたけど。

 こういうヤバい時は、仲直りしてさぁ……」


「そんなの、どうでもいい……っ」


「ど、どうでもいいって……オマエ」


「まあ、八つ当たりの相手が居るのは、ラッキーか……?」



俺は、魔物に目を向ける。


背丈は、成人女性くらい。

顔から胸まで、赤っぽいマスクみたいな装甲をつけた、クマ型の魔物だ。

微妙に背丈が届かないのか、俺たちの乗っている岩の周りをうろついては、ガリガリやってる。


多分、ギリギリ幼獣こどもの部類なんだろう。

明らかに『狩り』に慣れていない。


マッシュくらいの逃げ足だけ速いガキに手間取っている時点で、ザコの証明みたいなモンである。


え? 幼なじみに対してひどいって?

うるせー、俺は今ハートが深く傷付いているんだよ!

もうちょっとで闇落ちして魔王とかなってしまう瀬戸際なんだっ



「親が出てくる前に、片付けて帰るか……」



俺は手順を頭の中で組み立て終わると、幼獣を飛び越えるように、大ジャンプ。


── グガァァッ!

途端に、背後から魔物が襲いかかってくる。



「フンッ、あまい……っ」



それを見越していた俺は、前方へ高速移動。

右手の【鉤縄】で別の岩を掴んで、身体を引き寄せたのだ。


クマ型魔物の幼獣は、攻撃を空振り。

一瞬前までに俺が居た場所へ、赤装甲を付けた頭から突っ込み、水しぶきをまき散らす。


俺は、振り返って、左手の【鉤縄】を発動。

何もない所に噛み付いた幼獣の、上顎と下顎を掴む。

さらに腕にひねりを加えると、ゴム状の半熟輝甲が頭や首の周りに絡みついた。



「はい、終わりーっ」



俺は、勝利の興奮や感動もなく、右手に拳大の石を握りしめる。

魔物相手なら、手加減なんか要らないだろう。

そう思って、右手の輝甲に、さらに【身体強化】を加える。


【超・強化モード】、発動!

俺の右手が光ってうなる!



「これが『必ず殺す技』と書く ── 必殺技・改だぁあ!」



── ビュゥンッ と石弾が風を切り裂き、とどろさけぶ!


その尋常ならざる気配を感じ取ったのか、魔物がこっちを振り返る。


── だが、もう遅い。

当たれば装甲も骨も、爆裂ばくれつ

まさに、神の手の如き一撃!


それが、この天もおどろく必殺の、石の剛速球・

灼熱の痛みとヒぃートぉ・共に果てろエンドぉぉ



(※ あ、一応念のため、通りすがりの一般人・マッシュ君に流れ弾がいかないように、方向をずらしてブン投げました。)



『── グラアァァッ!』



とか、クマ型魔物が強制的に閉じられたままの口で、気合いのような声を上げた。

その瞬間、魔物の身体から、暗赤色の煙幕のような物が噴き出した。


石の剛速球・破が、煙幕に突っ込む。


── ボフン……ッ



と真綿のクッションを叩くような音。


途端に、石弾のスピードが緩まった。

必殺の超威力が吸収されてしまい、ゴツンと、鈍い音が響くだけ。


隕石弾じみた勢いの石の剛速球・破は、ただの石つぶてまで威力を弱められたらしい。

クマ型魔物の赤い頭部装甲に、軽く弾かれてしまった。



「── はぁぁあああっ?

 そんなバカなぁああっ」



俺の驚きの声だけが、虚しく響いた。


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