040話ヨシ! 秋の味覚
骨折の治療は、意外と早く終わった。
「これが坊やの足に入っていた、固定金具じゃな。
これに懲りたら、少しは気をつけるように」
いましがたの手術で取り出したばかりの金属片を、見せつけられる。
白髪の老医者は、まだ血の付いたままの状態の物を、わざわざベッド脇に持ってきた。
足を折った翌日の1回目の手術もそうだったが、今回の摘出手術も、あっという間だった。
手術室にベッドで運ばれて、すぐに意識がなくなったので、どんな事をしていたのかも解らない。
どうも、この世界にも既に全身麻酔があるらしい。
さらには、ポッキリいった足の骨を、2週間で接合できる技術があるらしい。
科学万能の前世の世界でもなかったような、超絶な治療技術だ。
「もしかして、『回復魔法』とかあるのかな……?」
俺が思わずつぶやいた言葉が耳に入ったのか、老医者は苦笑する。
「── まるで魔法のようかい?
じゃが、どんなに良く効く薬でも、失った手足までは戻らんよ。
ワンパクもほどほどにせんと、親を泣かすぞ」
老医師は俺の頭をなでて、病室を出て行く。
部屋の外で、ママがお礼を言っているような声が聞こえる。
「…………なんか、やけに足が熱いな……」
俺は、そっと布団を持ち上げて、【
両足に巻かれた包帯の下が、うっすらとオーラの光を発している。
「……何もしてないのに、オーラが集中してる……
もしかして、薬で生命エネルギーを強めて、傷を
うわぁ、意外とスゲーな、この世界……っ」
思いがけないファンタジーさに、ちょっとだけ感動した。
▲ ▽ ▲ ▽
両足骨折の回復が2週間。
それからのリハビリで2週間。
約1ヶ月後には、俺は登校を再開していた。
元気に走り回れるくらいに脚力が回復するまで、もう半月かかった。
初夏に骨折して1月半。
季節は秋の手前だ。
今日の幼年学校は、秋の校外授業。
たのしいたのしい、おイモ掘りだ。
この世界の農園は、都市の外にある。
ちなみに都市の外は、こんな構造だ。
城壁の外回り巡回路があり、その周りに魔物除けの水堀があり、その外に農園や放牧地帯がある。
農業や放牧の作業員は、夜明けと共に都市の外に出て、夜更け前に帰ってくる。
都市の外は、昼間でも時々魔物が襲ってくるので、必ず防衛隊の兵士が付きそう決まりだ。
そのため、今回の校外授業でも、防衛隊の人達が付いてきている。
ウチのパパや近所のおじさんが、引率の先生達と和やかに話している。
防衛隊の大人達にとっては、半分授業参観みたいな物なんだろう。
子どもの収穫作業に目尻をさげている人も少なくない。
俺も、どりゃああ、と一気にイモを引き抜く。
まさに芋づる式の大量に収穫だ。
ガハハ、とパパが笑ってこっちを指差しているので、手を振って応える。
お昼は、取れたてのイモを使った、焼き芋だ。
「今日も平和でイモがうまいっ」
ほくほくの焼き芋をほおばり、満足のゲップ。
しかし、イモをお腹いっぱい食べると、困ったことが起こってしまう。
そう、おならだ。
ジェントルマンで皆の憧れ男子なアット君が、みっともなくブッこく訳にはいかないのだ。
小さなレディー達の夢が壊れてしまう。
小用もかねて、こっそり河原へと向かう。
「フゥ……っ
おならだけではなく、大きい方まで出てしまうとは……
なんという整腸効果……
さすがファンタジー植物は違いますねっ」
異世界イモのすばらしい
俺は、岩陰で用を足し終えると、川の水でお尻を綺麗にして、ちり紙でふき上げる。
「ああ……ウォシュレットが懐かしいな……
今の生活で、それだけが不満かな……」
清潔好きなニッポン国民の
そんな郷愁に黄昏れながら、半ズボンのベルトを締め終わった時に ──
── 『イヤァァァ~~っ!』と、少し遠くから、悲鳴が聞こえてくる。
俺は、すぐさまオーラを耳に集中して【聴覚強化】を発動。
バシャバシャと水を蹴る音。
方向は、上流の方。
おそらく数百m。
すぐに、【身体強化】を発動して、飛び出す。
同時に、両腕と
「── ついに、この日が来てしまったか……っ」
俺は覚悟を決めるように、下唇を噛みしめる。
突然の魔物襲撃 → さっそうと助ける → ベタ惚れ!
まさに、ヒロイン登場にふさわしいシチュエーションだっ
「行くぞヒロインっ 覚悟しろ!」
俺は、意気揚々と飛び出すと、人の背丈ほどもある巨岩を飛び越える。
勝利は目前だ!
やがて、目の前にヒロイン助太刀シチュエーションが見えてくる。
川の中で水しぶきを上げて走る、巨大な影!
それから逃れようと、足をもつれさせるように走る人影!
そして、揺れるトサカ髪型!?
(なん……だと……?)
俺の動揺にはお構いなしに、やたら聞き覚えのある声が響く。
「── うわぁぁん、パパママ、たすけてぇえっ
もう、イタズラしません、小さい子泣かせませんっ
アットとも仲良くするからぁっ」
…………毎日お隣に見る、男児の姿だった。
イヤになるくらい見慣れまくった顔が、涙や鼻水で、えらい事になっていた。
(── マッシュ、お前かあぁぁ~~っ!)
俺は、打ちひしがれて、その場に
── 『巨岩の上に立って、格好よくポーズでも取ろうかなっ』
とか、数秒前までルンルンで考えていただけに、理想と現実の落差が半端ない。
俺は、そんな現実の非常さ抗うように、足下の巨岩を殴り続けるのだった。
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