035話ヨシ! 金輪際
俺は、屋台のおっちゃんに代金を手渡して、
そして、屋台通りのすぐ近くにある、公園なのかイベント会場なのか解らないような、大広場の端っこのベンチへ移動。
俺は、彼女に勝利の景品の
すると暗殺幼女が、物言いたげな目を向けてきた。
「…………」
「── ん、何?」
「……まったく、呆れました。
よくもまあ、すらすらと、あんな事が……」
「だって、その覆面は外せないんだろ?
それっぽい理由がないと、マズいだろ?」
「…………」
そういう俺の、紳士的な
しかし、暗殺幼女は、それをあっさり無にするように、覆面を取った。
白とまでいかないが、薄めの肌の色。
髪の毛は、黒くて
顔立ちも日本人的で、ちょっと親しみを覚える。
「おいおい、いいのか?
覆面を外して」
「た、食べにくいから、仕方なく、です。
あまり見ないで下さい。
顔を覚えられると困ります」
暗殺幼女は、口早に言うと、黙々と
何かと、せわしい子だな。
さっきの競争でも、スタートの合図を待たずに走り出すし。
「ああ、ちょっと待てって」
俺は、片手を上げて、ポケットからクルミを取り出す。
右手だけオーラで身体強化。
数倍になった握力が、パキンッとクルミの
中からクルミの実だけを取り出して、さらに細かく砕いて、自分の
「これを入れたら美味いんだぜ。
基本的にここの屋台、安くて早いけど、味が薄いからな」
彼女の皿にも、砕いたクルミをかけてやる。
するとおっちゃんが、聞き捨てならないとばかりに、屋台から飛び出してきた。
「── 違うぞ、ボウズっ
それは、味が薄いんじゃなくてな!
常連は夜勤疲れのお役人さんだから、お
「── う、あ、おぉ、うおぉっ!」
俺は、両手をバタバタさせながら立ち上がり、暗殺幼女を背中に隠す。
(おいおい、おっちゃん!
いきなり出てくるなよ、あっぶねー!
2人して、屋台の方に背中向けてベンチに座っててよかったぜ……っ)
俺は、冷や汗をかきながらも、屋台のおっちゃんを
「── うっせえな、おっちゃんっ
家族
アンタ、
俺が、そういう危機感で心臓をバクバクさせながら、怒鳴りつける。
おっちゃんは、ようやく 『(設定上)素顔を見られたくない姉』 という説明を思い出したらしい。
慌てて顔を背け、屋台へ戻っていく。
「だ、だってな、ボウズ……っ
自分の料理をそんな風に言われて、黙ってられる料理人がいるかよ……!」
俺のさっきの発言が、料理人としてのプライドを傷つけたらしい。
(── ああぁ……もうっ
これだから 『職人』 は面倒なんだよなぁ……)
前世の、工場勤めの記憶がよみがえる。
頑固な職人がヘソを曲げると、ご機嫌取りに
こういう時は、こっちから折れるしかないのだ。
意地を張り合っても、結局こっちが負けるのだから。
「わかったわかった。
悪かったって!
おっちゃんの料理は美味いっ
ちょっと薄味だけど、中年の健康に気を遣った味だよ、いよっ料理の鉄人 ──
── ん、どうかした……?」
俺がベンチにかけ直すと、暗殺幼女は少し肩をふるわせている。
やべえ、もしかして屋台のおっちゃん、始末する事が決定しちゃった?
「── い、いえっ
な、なんでも……フフっ……ないですっ」
暗殺幼女は、思いがけず楽しげな声。
おっちゃんの命は、どうも大丈夫そうだ。
それから、黙々と食事タイム。
暗殺幼女は、俺より少し早く食べ終わる。
手持ち
ちょっと気まずいので、止めて欲しかったけど。
▲ ▽ ▲ ▽
二人で食器を返しに行くと、屋台のおっちゃんが申し訳なさそうな顔をしていた。
「あ、お嬢ちゃんすまねえな。
気が
ウチの
またボウズと一緒に来てくれよ、今度はお詫びに、おまけすっからさ」
「ええ、そうですね。
機会があれば、また」
覆面をかぶった暗殺幼女は、弾んだ声で答える。
少し屋台から離れてから、俺は
「……え、マジ?
通いたいくらい気に入った、あの
好みが合うな、とちょっと嬉しくなったのだが。
「いいえ。
さっきのは、社交辞令ですよ
二度と来る事はないでしょう」
冷え冷えとした声が返ってくる。
「…………えっと。
そんなに口にあわなかった?」
「あ……いえ、そういう意味ではありません。
ごちそうさまでした、美味しかったですよ。
満足しました」
「なら、なんで……?」
「貴男も解らない人ですね……
さっきも何度も言ったでしょう?
二度とあの屋台へ訪れる事はありませんし、貴男にも、二度と会いません。
── つまり、そういう事です」
突き放すように言われて、バカな俺でも理解した。
これ以上は踏み込むな、という意味だと。
今日の会食は、気まぐれが生んだ偶然で、二度とないと。
彼女は自分を嫌っているのではなく、むしろ好意で、そういう事を言っているのだと。
「……そっか」
「そうです。
間違っても、今後『わたしみたいな者』に関わらないでください。
そういう 『真っ当な人生』 を歩んで下さい。
きっと、そっちの方が幸せですよ」
「じゃあ、俺は負けっぱなしか……」
「ええ。
せいぜい悔しがってくださいっ
それではお別れです」
「ああ、またな」
「『また』 はありません、
さようなら」
暗殺幼女は少し目を細める。
そしてすぐに俺に背を向け、薄暗い裏道へ駆けだした。
黒づくめの姿は、すぐに闇に
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます