成果と課題

036話ヨシ! ハイパージャンプ(↑)


「負けっぱなしは趣味じゃない……」



夜の城壁を見上げると、彼女の事を思い返していた。


暗殺幼女に『さよなら』されて、数日。

俺は、微妙に気持ちが落ち込んでいた。

なんとなく、いつもの筋トレにも身が入らない。



「こんなに、自分が感傷的だとはなあ……」



前世では、30半ばまで生きたのだから、出会いと別れなんていつものこと。

気の合う友達と離ればなれになってガン泣きするなんて、若さの特権だ。

── そう思っていた。


社会人になれば、葬式やお通夜だってしょっちゅうだ。

親戚、同僚、ご近所さんが亡くなる事にも慣れてくる。

── そう思っていたのだが。



「生まれ変わって、気持ちが若返っているのかな……?」



いわゆる、『精神が肉体に引っ張られている』 状態なのか。

そんな事も、あるのかもしれない。


思い出してみれば、心当たりもある。

特帯の見送りの日に 『兄が死ぬかも』 と思った時もそうだ。

後先が考えれない程に頭に血が上ったし、激情のままに走り出してしまった。


気持ちは、肉体相応に子供。

だけど、知識は大人なのだ。


気持ちの切り替え方くらい、十分に解っている。



「フッ……っ

 ── 俺は、お前にぁ~つっ!!」



俺は、気合いを入れて、20m級の城壁を指差す。

したり顔をした、暗殺幼女の素顔を思い浮かべながら。





▲ ▽ ▲ ▽



「さて。

 まずは敵の分析だ……っ」



俺は、数日前の夜の競争を思い返す。


暗殺幼女が、『門外不出の闇の技』 と呼んだ長距離ジャンプ。

あれは、俺の【鉤縄かぎなわ】と同じで、半熟はんじゅく輝甲の伸縮特性を利用した技術だった。


太股とふくらはぎを結ぶ、靱性じんせいのあるオーラ固形化の帯。

通常は、柔らかいそのままの状態で、走る時などには邪魔にならない。

ジャンプの瞬間にだけ、輝甲の密度操作で急激に伸縮させて、跳躍力をアップさせる。


分かりやすく言えば、『脚部の裏面にバネを仕込んでジャンプ力を補強する』 みたいな技術だ。



「確かに、俺の空中移動よりは洗練されてるよな……」



俺の、【鉤縄かぎなわ】を利用した方法は、(1)足で蹴った後に(2)輝甲の籠手で押し出す、という2段階動作ツー・アクション


比べれば、脚力を補強して長距離ジャンプしている 『闇の技』 の方が、単純シンプルかつ効果的だ。



「だからって、そのまま盗用するパクるのも芸がないな……」



見てろよ!

こっちには、科学万能21世紀の知識があるんだ!


前世のニッポンが誇るヘンタイ精密技術で、魔改造まかいぞうしてやる!





▲ ▽ ▲ ▽



それから小一時間。


色々考えて出来たのは、輝甲の足甲だった。


基本的な構造は、【鉤縄かぎなわ】の籠手と同じだ。

半熟輝甲のインナーを靴下状にして、その上から固ゆで輝甲の小パーツをたくさん取り付け、ロングブーツ型の防具にしている。


最大の違いは、膝から足首までのインナーの形状を、螺旋らせん構造にした事。

つまりは、螺旋コイルバネ状態の半熟輝甲をあえて作った。


これをジャンプの瞬間に伸ばす。

すると、身体が空高く打ち上げられるはずだ。


これなら、暗殺幼女の秘伝技にも負けないはず。

いやそれどころか、それを上回る跳躍力をたたき出すだろう。


なにせ、向こうは板バネ方式、こっちは螺旋コイルバネ方式。

伸縮性能は、こっちの方が遙かに高いはず。



「まあ、最大の欠点が、つま先立ちじゃないと引っかかるって事だけど……」



先ほど、平屋根に足を放り出した体勢で、何度かテストをやった。

その結果、足の甲を寝せてつま先を伸ばさないと螺旋コイルバネがひっかかって止まってしまう事が解った。


今後の要改良のポイントだが、今回は動作テストだ。

そのままの状態で性能を試す事にした。



「ジャンプする瞬間、つま先立ち……

 ジャンプする瞬間、つま先立ち……

 ジャンプする瞬間、つま先立ち……」



スキージャンプ選手みたいなイメージトレーニングを繰り返す。


ちなみに今回の目標は、家の屋上(推定10m)から城壁(推定20m)へのジャンプだ。


もし城壁まで届かなかった時のために、両腕の輝甲籠手を装着しているので、【鉤縄】でぶら下がるという安全対策も万全。



「よし、いくぜっ」



準備万端ばんたんと、俺は両手でほおたたいて気合いを入れる。


軽く助走をつけて、平屋根のへりの少し手前で、両足をそろえる!



(……あれ、なんか忘れてるな ──

 ── あ、『指さし確認』か……まあいいや)



一瞬、そんなどうでもいい思考がよぎったが、身体はイメージ通りに動いた。


少し沈み込んで、両足で一気に地面を蹴る。

足の甲を真っ直ぐするようにつま先を伸ばす。

そして、ロングブーツ型の輝甲の螺旋コイルインナーを、高速で伸長。



── 全てが理想通りに連動っ!



耳元で、ゴウゴウと夜気が流れ去る。

俺の身体は、夜空高く舞い上がった。

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