028話ヨシ! 困ったマッシュ君

幼年学校に入学して、半月ほど経った。

あれだけ不安が一杯だった幼年学校であるが、今のところ学校生活は順調だ。


流石に周囲がリアル6歳児ばかりなので、学習とか手を抜いていても勝てるレベル。

よくよく考えれば当然の事なんだが。



(そもそも俺、最初なんであんなに嫌がっていたんだろう……?)



今さらだが、そんな風に疑問に思う。



さて、そんな順調な学校生活で唯一の困り事は、お隣のマッシュ君だ。

ウチの姉さんはともかく、俺にはほとんど口をきいてくれない。


今までなんか、頼みもしないのに我が家の庭に入り込んで来てた子が、最近はやけによそよそしい。

マッシュのお姉さんが言うとおり、しばらく構ってやらなかったからスネたっぽい。


それならそれで仕方ない。

以上。


── で終わる話だが、そうはいかない事情もある。


彼、どうも幼年学校のクラスの中で浮いてるっぽい。

ちょっと乱暴でガサツで脳筋で ── と、武門一族の悪いところが出ている。


今世の俺ことアットと同じように、マッシュ君の家も先祖代々と続く武門一族だ。

ウチとかもそうだが、『子供の兄弟ゲンカで鼻血を出すとか普通』という、ちょっと荒っぽい家庭が多い。


だが、幼年学校には一般家庭の子供も大勢いる。

そういう子達には、正直、刺激が強すぎるのだ。

端的に言えば、不良や荒くれ者的で、ちょっと怖い。


しかも、身体能力はクラスでトップレベルなのも、拍車をかけている。

(なお、クラス1位・兼・学年1位は俺だ。筋トレガチ勢なめんなよ!)


そんなマッシュの様子に、幼年学校の先生達も頭を痛めていて、



「アット君、マッシュ君のお隣さんだよね?

 仲良くしてあげてね」



と、念押して頼まれるくらいだ。


そう言われて、学校の行き帰りとか、ちょこちょこ話しかけるように意識している。

だが、返事が返ってこない。

会話が成立しない。


だから、俺が一方的に挨拶とかするだけになってしまっている。



「どうしたもんかな……」



前世でいえば6歳男児とか、小学校1年生くらいか?

ちょうど生意気盛りのクソガキの頃だ。


気になる女の子に嫌がらせとかして泣かせちゃう年頃。

何かと意地になりやすい年頃だ。


そんな気持ちも解るし、だからこそ解きほぐす面倒さも、また解るのだ。



── 結論。



「まあ、いいや、ほどほどで……」



別に、学校だけが人生ではないし。

家に帰った後、他の近所の子と遊んでいるようだし。


そして何より。

オッサンの失われた青春を取り戻すための第2の人生というのは、何物にも代えがたいほどに貴重なのだ!


── 知るか!

萌えもクソもない幼なじみ(同性)がスネたとか、クソどうでもいいイベントっ

誰が攻略するか、アホか、時間のムダじゃねえか!

美少女に生まれ変わって ── いやせめて女の子に生まれ変わって ── 出直してこい!


『最近ワタシの相手してくれないよね?』 と、

『最近ボクの相手してくれないよね?』 とでは、

言葉の重みに天地ほどの差があるわい!





▲ ▽ ▲ ▽



そんな内心の憤りはさておき、久しぶりに存分に身体を動かす。

『うんてい』しながらの懸垂が、背中の筋肉に効いてるなぁ。


この前の『お隣さんの壁に突撃!激突☆』したせいで、全身くまなくあちこちれたので、しばらく特訓をお休みしていたのだ。


俺が上半身を脱いで、汗を拭いていると、妹がブランコをしながら声をかけてくる。



「おにーちゃん、何がほどほどなの?」


「あー、うん、お隣のマッシュ君がなぁ ──」


「カーチ、マッシュ兄ちゃんきらぁーい!

 イジワルばっかりするんだもんっ」


「……だよなぁ……」



基本、イタズラ大好き、悪ガキのマッシュ君である。

年下の子には迷惑がられるような、『構い方』をする。

『ウェーイw』とか言ってそうな体育会系のセンパイを思い浮かべていただければ、大体そんな感じだ。

ウチの妹とかマッシュん家の弟妹とか、時々泣かしてはお姉さんに説教されてる。



(そういう事を考えると、マッシュの今の状況って、けっこう自業自得だよな。

 いい加減、あの性格を矯正きょうせいしないと、のちのち本人が後悔するだろうし、ほっとくか……)



上手い口実がみつかっt ── 訂正。

俺があまりフォローすると本人のためにならないという結論が出たので、今までどおりの干渉に止める事にする。


はい、決定!


悩み事が一つ解決したし、久しぶりに筋肉痛が出そうなくらいトレーニングできて、色々スッキリした。

いやー、軽く運動して汗かくって、マジいいな。

前世でももうちょっと、筋トレくらいやっとけば良かった。


筋肉痛も、慣れてくると全然気にならなくなるし、筋肉が増えてる実感がわくので、むしろ嬉しくなってくる。



「お兄ちゃんみてー?」



妹が手を振ると、ブンブンとすごい勢いでブランコを加速させる。

最終的には、ほとんど真横まで振られるブランコ。

妹はそれから飛び降り、クルクルと空中1回転して着地。



「おー! すごいすごいっ」



と、拍手してほめてやると、妹はダッシュで抱きついてくる。

うん、当家ウチ実妹ひめさまがいちばんカワイイぞ!

(現在ヒロイン不在のため、実妹が代理出場しております、ご容赦ください。)


気分がいいので、『高い高い』もしてやる。


こっそりオーラ身体強化を使って、1メートルほど投げ上げるという、『リアル高い高い』だが妹は大喜び。


近所のちびっ子達にも大変好評だ。


この辺りの行動は、一般のご家庭では『危ないから止めなさいっ』とか言われそうだが、前述のとおりウチみたいな武門系の家庭だと『まあ元気な子ね』くらいですんでしまう。


そんな事をしていると、姉さんが『夕ご飯よー』と呼びに来る。



「はーい、今行くー」



俺は、妹を下ろして、ついでに揺れ続けるブランコも停止させる。

これをヒモで縛り、地面に打ち付けた杭にセットして、揺れないように固定させる。


こうしておかないと、真夜中キイキイ鳴って、近所迷惑になるのだ。



「……あれ、コレって、使えるんじゃね?」



俺の脳裏には、さきほど妹がやったブランコを使った大ジャンプの映像が、何度も繰り返し再生されるのだった。


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