027話ヨシ! ス●イディのマネいきます

入学初日の夜。

夕食のあと、俺は元気を持て余していた。


いままでは、午前と午後の2回、キツめ訓練をしていた。

それが今日は、学校から帰ってきた夕方の2時間くらいしか、本格的に身体を動かせていない。


余った体力スタミナが発散先を求めている、という感じだ。


ほら俺って、どれだけ眠くてもスマホゲームソシャゲで毎日のログイン・ボーナスと、行動制限スタミナの全消費は頑張るタイプだから。


そんなんだから夜型人間になっちゃうわけだ。



「いいわねアット、今日は早く寝るのよ。

 明日ちゃんと起きなかったら、パパにゲンコツしてもらうからね!」


「はぁーい、はやくねるーっ

 おやすみ、お姉ちゃん!」


「もうっ

 いつも返事だけはいいんだから……っ」



俺は、姉さんの呆れた声を聞き流して、子供部屋(男)のドアを閉める。

兄ちゃんは養成校の寮生活で、弟はまだ赤ちゃんなのでママと一緒の部屋。


つまり、この部屋は俺の独占状態という訳だ。


そそくさと、ベッドに小細工をして掛け布団を膨らませたり、身支度をする。

そして、音を立てないように窓から出て、家の外壁に張り付いた。


輝甲の右籠手を上へ向けると、ゴムのように伸ばす。

そして籠手の手の平部分だけ操作し、我が家の平屋根のへりをつかむと、伸びた腕甲をゴムのように一気に収縮させて屋上へあがる。




(こうやって使うと、なんかニンジャの道具っぽいな……)



前世の世界で、カギ爪にロープを付けた壁登り用の道具とかあったな。

時代劇で見たような気がする。



(たしか『鉤縄かぎなわ』って名前だったけ?

 見た目そのままだけど、この技の名前、もうそれにしようかな……)



この『輝甲(半熟)の伸縮腕』の技名を色々考えてみたけど、『マジックハンド』とか『のび~るアーム』とか『オーラキャッチャー』みたいな感じしか思い浮かばない。


そんなホームセンターの便利グッズみたいな名前は、流石に却下。

なんだよ『オーラキャッチャー』って。

ナレーションの人が「こんな狭い隙間だって、ほら、このとおり!」とか言ってそう。


そのまんまだけど、シンプルな方がマシだろう。


まあ、俺も永遠の中二病なので

『魂の光よ! 我を彼方に導き虚空そらを駆けたまえっ』

みたいな呪文の詠唱えいしょうとかあこがれないでもない。


でもね、現実にやろうとすると

『魂のひk── あぁぁっ!(移動中)』

とかなる訳です。


むかと思ったよ。



(そんな訳で、新技の名前は『鉤縄かぎなわ』に決定!)



さて。

今日は、夜の街中を飛び回りたいと思いますっ

ああぁ~、ワクワクする!

アメコミのスーパーヒーローみたいっ!



(では、『鉤縄かぎなわ』を発動!)



以前コツを覚えた通り、輝甲(半熟)のオーラ密度を操作。

右籠手を飛ばすように伸ばし、目測で20mは離れたお隣さん宅の屋上のへりを掴む。



(バッチリだ! 練習の成果だな)



練習の最初の頃は、目測の位置まで伸ばす長さ調整とか、伸ばした籠手で掴むタイミングなんかに手こずった。

だが練習の途中で、『瞬瞳しゅんどう』を一緒に使う事に気づき、望遠機能やスロー機能を併用すると、あっという間に簡単になった。



(マジで『瞬瞳しゅんどう』が神スキルだな)



自力GETした最強能力チートを絶賛する。


我が家の屋根から飛び降りる ── と、同時に右籠手を収縮!

狙い通り、俺の身体はお隣の家に引き寄せられ、空中を ──


── ベシンッ! と、レンガ造りの壁に大激突ッ☆



(── いっ……てぇええええっっ!)



全身くまなく壁にブチ当たった。

さらに、ぶつかった反動で弾き飛ばされ、うっかり落下しそうになる。


俺は、慌てて『瞬瞳』と左籠手で『鉤縄』を発動し、お隣さん宅の平屋根に上がり込む。



「……ああ、痛ぇ……っ」



軽く涙が出る。

半年前に手首を挫いたグギった時の次くらいに痛かった。


ふっ、俺みたいな鍛え抜かれた6歳児じゃなかったら、ギャン泣きしてるぜ!

あ、ちょっと鼻血も出た。



「いくらなんでも、考え無しにやり過ぎたな……」



ハリ●ッド映画で赤服ヒーロークモおとこが簡単そうにやってるから、すぐ出来るだろうと高をくくってしまった。


そりゃまあ、考えてみれば当然の結果がだった。

この前、森の中で木の枝と枝を飛び回った時みたいに、下をくぐり抜ける事ができないのだから、もうちょっと色々工夫しないといけない。


片手で鼻をつまんで鼻血の止血をしていると、ドタバタと階下から音が聞こえる。



「ん、なんだ……?」



俺は、屋内の様子を伺うために、久しぶりに聴覚強化をやってみる。



── 本当だってっば。さっき家の上の方でスゴい音したんだから!


── あらやだ、泥棒かしら……。


── 何ぃ!? れ者め、叩きのめして自警団に突き出してやるっ


── パパ、オレもいくっ


── よし、それでこそ武門の子だ! だが父さんの後から出るんじゃないぞ!



「……うわぁ、やべえ」



一応説明しておくと、我が家エセフドラ家のある辺りは、城壁のすぐ近く。

都市で最も外郭部に位置している区画だ。

万が一、魔物が城壁や防衛体勢を突破して侵入すれば、最初に被害を受ける場所だ。


そのため兵士の詰め所とか、武器工房とか、軍に関係する施設ばかりが立ち並ぶ。

住民は、ウチみたいな先祖代々武門の一族とか、役所の関係者ばかり。


つまり、兵士か役人ばかりが住む、泥棒にとって悪夢みたいな区画だ。



「泥棒と間違われてボコボコにされたら、たまらん……っ」



お隣さんの屋上をダッシュして、平屋根のへりを踏み台に、思いっ切り大ジャンプ。

そしてすかさず、右籠手で『鉤縄』を発動。


外灯へ右籠手を伸ばし、身体を引き寄せると、そのまま鋼鉄ポールにしがみつく。

勢い余ってポールをぐるんぐるん回りながら、地面まで下りた。


お隣さん宅の屋上がワイワイガヤガヤしだしたのを尻目に、こっそり死角に回り込み我が家2階の子供部屋(男)に戻る。



「ふぅ……赤服ヒーロークモおとこ方式はだめなのかな。

 どうやって飛び回ってたのか、もう一度映画のDVDをスロー再生して ── って、この世界DVDそんなの無かったか……」


俺は、そんな不満をいいながら、ベッドに潜り込んだ。




▲ ▽ ▲ ▽



翌日の朝。



「アットったら、今朝なんて、鼻血だしたのよ。

 昨日あれだけ嫌がってたのに、行ってみたら学校が楽しかったみたい。

 もー、アンタどれだけ興奮してんのよ、って感じよねー」


「へー、そんなに楽しかったんだ。

 ウチの弟なんて、昨日さっそく暴れて先生に怒られたみたい。

 もう、ヤンチャで困るわ。

 ── ところで、昨日の夜中、ウチの家に泥棒が入ったんだけど……」


「えぇ、うそぉっ

 大丈夫だったの?」


「うん、何も取らず逃げたみたい。

 それでねえ、ウチのパパが ──」



ウチの姉ちゃんとお隣の姉ちゃんが、通学路を歩きながら、そんな雑談を始める。



「…………」



色々心当たりがあって、気まずい。

話を振られませんように、と内心で祈る。



すると、何故か隣を歩くマッシュが、無言でこっちを見つめてくる。



「………………」


「………………」



昨夜やらかした罪悪感のせいか、その視線が何故か責めるように感じる。

俺は、プイッと視線をそらし、ストレス発散の鼻歌を始めた。


思わず出てきた曲は『青い●ナズマ』のサビ部分だった。

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