029話ヨシ! いわゆるハ●ジのアレ

妹のブランコ遊びに、空中移動のヒントを見いだした日の夜。



(── 『思い立ったら吉日』だっっ)



俺は、早速、試してみる事にした。


前やったように、親が子供部屋(男)の様子を見に来てもバレないように、ベッドを小細工で膨らませる。

そして、パジャマから黒系の外出着に着替えて、窓から脱出。


輝甲の右籠手を高速伸縮する、『鉤縄』を発動。

外灯の鋼鉄パイプにカギ爪を引っ掛けると、2階の窓枠から家の敷地外へ高速移動。



「よしっ 準備運動OK」



半月ぶりに使うが、技のキレに問題はない。


俺は、大人に見つからないように、チョコチョコとネズミのように夜の街を駆けていく。

目指しているのは、もう少し都市中央に近い市街地の方。


我が家がある辺りは、城壁のすぐ近く。

万が一の危険があるため、人気のない区画だ。

そのため、広い庭付きの一戸建ての家ばかり。


前世の土地事情に当てはめると、我が家のある都市外郭部が『郊外の田舎町』、都市中心部が『市街地のある都会』だと思ってもらえばいい。


建物がまばらな田舎町では『スパイ●ーマンごっこ』はやりづらいのだ。


空中移動をやるには、もうちょっと密集地の方が都合がいい。


そんな訳で、2kmくらい移動しただろうか。

一般市民のベッドタウン的な、住宅密集地にたどり着く。


大通りの看板には『15番街』と書いてある。


都市中央が1番街で、外に近づくほど数が大きくなる。

我が家の辺りが24番街とか25番街あたりなので、この辺りもまだまだ郊外よりの住宅地だ。



「最初は軽く肩慣らしに……」



大通りは、時々人が通ったり自警団の巡回したりするので、脇道に入る。

それに小道の方が、道幅が狭くて建物が近いので、やりやすいと思った訳だ。


両手で、斜め前を向けて『鉤縄』を発動。

2m程の脇道の左右に立つ建物の屋上へ向けて、籠手が伸びた。

そして手甲で屋上のへりつかむ。


俺は少し走りながら、、輝甲(半熟)を半分だけ収縮させる。

グッと身体が持ち上がり、サーカスの大ブランコのように、空中をスイングする。



「おおぉぉ……っ」



感動で、思わず声が出た。

屋上から籠手を離す事を忘れていたので、そのまま振り子のように、元の位置へ戻された。


俺は、一度、『鉤縄』を解除して両手の籠手を引き戻し、地面に下りる。


ある程度上手くいったので、次の方法を考えた。



(一度目で、一気に収縮して、斜め前に大ジャンプ。

 屋根の高さまで落ちてきたら、斜め前に『鉤縄』して、空中ブランコの要領で前移動をジャンプを繰り返すって感じかな……?)



ひとまず作戦を立てて、やってみる。

狙い通りに、空中遊泳は上手くいった。



(うははっ

 たのしいな、これっ

 妹がブランコにはまる訳だっ)



特に、夜空に向かって飛び上がる瞬間が、爽快だ。


空中ブランコと大ジャンプを繰り返し、800mくらいの裏道を行ったり来たりする。

俺は、夢中で小1時間ほどトレーニングを続け、家に帰った。


慣れない事をして疲れた事もあり、その日はぐっすりと眠れた。





▲ ▽ ▲ ▽



「あいたた……っ」



翌日、目が覚めると、両肩に違和感を感じる。



「アットどうしたの?

 寝違えた?」



朝食の後も両肩を回し続ける俺に、姉が不思議そうな顔を向ける。



「う~ん、そうかな。

 わかんない」


「パパみたいにムキムキになりたいからって、頑張るのはいいけど。

 あんまりムリすると身体壊すわよ?」


「うん、わかった……」


(多分、これアレだな。

 昨日の空中ブランコが効いてるのか……

 実質バタフライみたいな動きだったからな……)



『上手くいった』と思ったのも束の間。

新たな問題点が浮上する。



(何で異世界でも『カイゼン』運動しないといけないかな……)



前世の工場勤めを思い出させる状況に、少しだけ気が滅入った。

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