016話ヨシ! 12ヶ月後(3)、半熟ヒーローの苦悩

ようやくオーラの固形化・『輝甲』のやり方を覚えた。

だが、今度はその解除方法が問題となった。


色々試したが、なかなか上手くいかない。

あんまり悩みすぎて、ちょっと頭痛がしてきた。



(まあ……

 正直、あんまり頭よくないからな、俺って……)



せっかく生まれ変わったのに、頭脳程度は前世と同じくらいというのは、ちょっと悲しい。


しかしくよくよしていても仕方ない。

足踏みしていても、前には進まない。


俺は、とりあえず出来る事から、手を付けることにした。

輝甲 ── つまりオーラ固形化を、工夫をしてみる。


すると、意外な突破口が見つかった。



(まさか、オーラも半熟ができるとは……)



我が家のママが何度も失敗した、苦手な料理・半熟卵。


俺はそれを見て、オーラの輝甲を完全に固まりきらない半熟(半固形状態)になるか、遊び半分で試してみたのだ。


オーラを加熱するイメージで、輝きを強めて、中途半端に止める。

すると、コンニャクかゼリーみたいな、フニャフニャな輝甲が出来上がった。


なんだか面白かったので、さらに色々と試してみた。

ちなみに、この検証には、視覚強化『瞬瞳しゅんどう』のオーラ観測機能が役立った。


輝甲化の際に発するマグネシウム燃焼のような強発光を、基準の100%とする。

輝甲を柔らかく保つためには、強発光30~40%くらいでとどめる必要がある。


ちなみに、それ以上になると硬くなっていく。

強発光80%以下だと、硬いけど脆いという、防具として役に立たない感じだ。


そして、強発光30~40%の状態を1分ほど続けると、さらに性質が変わる。

フニャフニャ輝甲に、靱性じんせいが増して、ゴムみたいに伸び縮みするようになる。


これで、長手袋みたいな形にして片手を覆い、勢いよく腕を振り回すと、ビヨ~ンと半固形の輝甲が2mほど伸びた。


ちょっと面白い。


ベチーン、ベチーン、ベチーン……

熱中しすぎて、気がつけば日が暮れだった


カエルの舌みたいに『物を捕まえて引き寄せる』という事がしたくて、ひたすら伸ばしたり縮めたりしていた。

今ひとつ上手くいかない。


輝甲を伸ばした状態で、手が握れたら、色々活用できるのに。



(今のところ、グーならグー、パーならパーの状態で、ただ伸びるだけなんだよなぁ)



── そして!

伸びたり縮んだりする腕といえば、某・ゴム人間ヒーローだ!

あのジャ●プの大人気マンガの海賊主人公みたいに、『ピス●ル拳』とかも試してみる。



「うん、ムリだ、これ……」



まず、普通のパンチ打つ動作くらいじゃ、ゴム状態の輝甲が伸びない。

やろうと思ったら、誰かに真後ろから腕を引っ張ってもらうしかない。


あと、真後ろから180度切り替わって真っ正面というのが、肩の関節的にムリ。

グルグル腕を振り回したら、遠心力で伸びるけど、今度はパンチが真っ直ぐ飛ばない。


結局、何度やっても、『ゴム腕のビンタ』にしかならない。



「まあ、コレはコレで面白いから、良いけど……」



鞭にみたいに、ビシッとやって、敵の武器とか吹っ飛ばす方向で活用したい。


あ、ちなみに『半熟』も『固ゆで』も、輝甲のオーラ消費は、輝甲化する時の分だけらしい。


身体強化の方だと、エネルギーとして発散してるからなのか、発動時間=消費量なのに。



(しかも、ゴム状態でも輝甲をまとっていると、なんか筋力が上がってる気がする。

 ……うん、身体強化ほどじゃないけど、まあまあ筋力あがってるな。

 重量器具ダンベルを持った感じ、身体強化の30%くらい?

 まさか解除するまで永続するのか、これ?)



おいおい。

防御プラス身体強化とか、オールマイティ能力じゃん!

どうなんってんだよ、輝甲きこうって!



(身体強化は、発動中ずっとオーラ消費して、しかも精神集中しないといけないと、コスパも使い勝手も悪い。

 輝甲の方は、装着と解除が面倒なのが欠点だけど、それ以外は手間いらずで多機能。

 ただ身体強化の方が、筋力の強化度合い3倍くらい高くて、発動までの時間が短い、と ──

 ── うっわぁ~、これって多分、『最初から高等技術に手を出した』系の大失敗やらかしだなぁ……)



RPGゲームに例えると

『初級魔法と中級魔法をすっ飛ばして上級魔法を覚えたので、威力は高いが、MPカツカツで苦労する』

という感じだろうか。


俺は自分の無策さ加減に、ちょっと頭を痛めるのだった。





▲ ▽ ▲ ▽



さて、突破口の話を続けよう。


オーラの半熟状態(つまり半固形のゴム状態)の利点は、伸び縮みだけじゃない。

もう一つあった。


解除が簡単なのだ。

輝甲の『固ゆで状態』が10分近くかかったのに対して、『半熟状態』だと数秒で出来る。


それが、頭を悩まされた輝甲きこう解除の突破口だ。



「……半熟をインナーにして、上に固ゆでを付ければ、簡単に解除できる装甲になりそうだな」



つまり、俺の狙いはこうだ。


インナーの半熟装甲が消滅すると、その上に乗った固ゆで装甲が、宙に浮く。

つまり、身体から切り離される。

すると『オーラは身体から切り離されると、数秒で溶けて消える』(この前、爪をふやかした時にアレ)という性質が発動し、解除が面倒なオーラ固ゆで装甲を一発解除できるんじゃないか、という事だ。


これなら、兄ちゃんとはやり方が違うかもしれないが、時間的には大差ない、簡単解除ができそうだ。



「そうなると。

 とりあえず目指す形は、スケイルアーマーのタイプかな?」



魚鱗鎧とか、竜鱗鎧とかいうタイプの防具だ。

ベースとなる布や皮の服に、金属片を縫い付けて防御力を増した、動きやすさ重視の装甲。


爪の倍くらいの大きな鱗状装甲をいくつも作り出し、関節の邪魔にならないように、伸長に配置していく。

なんだが、爪やスマホにデコレーションしている女子の気分だ。


しかし、苦労した甲斐はあった。



「うおお……っ

 思った以上に鱗っぽくて、モ●ハン鎧みたいでカッコイイ。

 それに、ちゃんと指が動くし、パンチしても痛くないっ」



会心の出来だ!

とりあえず右腕のひじまでだけだが、ガッチリ重厚感のある籠手こてが完成した。


満足すぎて、今すぐ誰かに見せて自慢したい!

兄ちゃんの正規版にどのくらい近づいたが、比べてみたい!



(── でもなあ……オーラを勝手に覚えたのがバレるとマズいよな。

 犯罪者とか、テロリストとか、反逆罪とか、ヤバイ奴扱いされるよな……

 それで、この前の暗殺幼女ヘンタイとかに、命を狙われたら……)



あの、何人かってそうな鋭い目つきで、付け狙われるとか。


思い出すだけでも、おチンチンがヒュンってする。

ってか、ヒュンってした。


おかげで、少し頭が冷えた。



(うん……また一つ、他人に言えないヒミツが増えちゃったな☆

 影のヒーローはツラいぜ!)



そんな訳で、バカな俺でも、さすがに自慢してまわるのは自重した。


やっぱり『ご安全に!』は大切だと思った。

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