015話ヨシ! 12ヶ月後(2)、感覚派って指導者に向かないよね

昼食時の、ママの固ゆで発言の後。


俺は、庭のマイ訓練場で、腕組みしていた。



「なるほど、熱で固まるパターンか……」



オーラの特性を想定した時に、その考えは無かった。


光みたいに、波長の変化。

水が凍るように、温度を下げる。

あるいは、圧縮して固める。


そういうイメージばかりだった。


だから、タンパク質の凝固みたいに温度を上げて固まるというのは、盲点だった。

しかし、オーラが生命エネルギーなら、『そういうのもあり得るかも』とも思う。


試しに、オーラを手に集中しながら、色々イメージしてみる。


── 熱で分子の動きが激しくなるとか。

── 電子レンジみたいに加熱するとか。


そのどれが良かったのか。

オーラ視覚強化・『瞬瞳しゅんどう』の目でチョコチョコ観察していると、右手に集中したオーラが、強く光り始めた。


俺は、熱のイメージを強める。

右手は、燃え上がる火の玉。

炎の中では、オーラの細かい粒が、強い熱と光を発して、激しく暴れ回る。


すると、まるでマグネシウムが燃焼するような激しい光が、『瞬瞳しゅんどう』の目に映った。



「う、おおおお……っ」



少しして、強い輝きが収まる。

俺の右手には、分厚い野球グローブのような装甲が覆っていた。



「これが輝甲か……

 さっそくパンチの威力とか試してみるかっ」



もちろん、前みたいに手首を捻挫しグギッらないように、石壁は叩かない。

ここ2ヶ月ほど使い込んだ、新しい訓練用具に向かう。

拳を鍛える用の厚布を張った木版を、立て札みたいに立てた、パンチ用の標的だ。


『なんか空手マンガでこんなの使ってたな』という、あやふやな記憶の産物だが、まあまあパンチ力が鍛えられている。


その的の前に立ち、両足を肩幅に開き、片手を構える。


── と、重大な事実に気づいた。



「……あら?

 手首が、曲がらない……」



それどころか、右手全体がピクリとも動かない。

野球グローブのような黄色い輝甲は硬く、指一本すら、ろくに曲がらない。



「仕方ない、いったん解除を……──

 ── って、ああ!

 この『解除』ってどうしたらいいんだっ?」



オーラを物質化する事に頭がいっぱいで、その解除方法を調べもしてない事に、今さらながら気づいた。



(いや、落ち着け、俺。

 シェッタ兄ちゃんは、どうしてたか思い出すんだ……

 なんか、こう、ふわっと、雪が溶けるみたいに簡単に解除してたんだから……)



雪が溶けるイメージ。

砂の山がボロボロ崩れるイメージ。

ジェ●ガの塔が崩壊するイメージ。


解除できそうなイメージを、片っ端から思い浮かべる。


そんなこんなを10分ほど続けていると、ボロボロとようやく解除が始まった。



「── 装着の前に、解除方法を確立しないとダメだな……」



そんな事を言いながら、俺は訓練を切り上げた。

オーラの消費はそうまで無かったものの、気分的にかなり疲れ切ってしまった。





▲ ▽ ▲ ▽



翌日、俺はちょっと実験してみる事にした。


まず、輝甲を人差し指の爪にだけ作り出す。

次に、指をお湯の入ったカップに5分ほどつけて、爪をふやかす。


ふやけた爪を曲げて、輝甲を引きはがす。


身体から離れた輝甲が、どうなるか、という実験だ。



「おぉ……あっという間に消えた」



まるで、温泉に落ちたボタ雪のように、数秒とたたずに消え去った。



「……となると。

 身体からワンタッチで輝甲を剥がせれば、簡単に解除できるようになるわけか。

 細かいパーツを関節に邪魔にならないように装着して、なおかつ一発で脱着できる方法か……」



ちなみに、昨日の夕食後に兄ちゃんとボードゲームしている時に、『解除どうやってんの?』という事をそれとなく聞いてみたが、



「そりゃあ、アレだよ。

 こう、カッときた後にフゥって感じで、その上でバッとすると、バラバラって感じで ──

 ── このコツを覚えておくと、アットも養成校で優等生になれるからっ」



(いやいや、全然そのコツがわかんねーよ!

 擬音ぎおんだらけの説明とか、ショーワの野球レジェンドかよ!?)



最悪な事に、ナガシマ語録ごろくなみの解説だった。

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