003話ヨシ! 3日後、酸い物を噛みしめる

「やばい……どうすればいいのか、全然解らん」



そんな苦悩に頭を抱える。

(※2年ぶり2回目)


なんかこう、身体の中に眠る、生命エネルギー的なのを探ればいいんだろ?

瞑想とかしながらこう精神集中的な!

簡単かんたん!

そんなの前世でマンガでいっぱい見たぜ!


という子供の目論見が、あっというまに潰えた。

(※2年ぶり2回目)


だいたい、瞑想とか、アレだ。

俺みたいな良い子は、おねむになっちゃう。

そして昼寝てしまうせいで、夜に目がギンギン。

結果、夜型人間化ばかりが、捗ってしまう。



「また、坊やの寝付きが悪くなったわ……」

(※2年ぶり2回目)



と、美人なママンを困らせてしまうだけの、訓練の実りがない3日間だった。





▲ ▽ ▲ ▽



そもそも、俺も、生まれ変わった当初は、異世界とか思ってなかった。


3歳くらいまでは、何の違和感もなく生きてきた

周りの人の特徴からして、『今度の人生は日本じゃないのかな?』、『ちょっと外国っぽいな?』という程度の認識だった。


気がついたのは、今世の父親が変身した時だ。

緊急事態とかで、防衛隊所属の兵士に招集がかかったらしい。


ヒゲもじゃの父が一瞬で鎧姿に変身し、すごい勢いで走り去るのを見送った。

それが切っ掛けで『超常の能力が実在する世界へ、生まれ変わったのだ』と気づいた。



「え、なに、俺ってもしかして、オーラつかえん子なの?

 そういえばパパンが、『輝士になれるのは、武門の家系でも2人に1人くらい』とか言ってたような……」



我が家は、兄姉俺妹弟の5人兄弟だ。

うち2~3人はオーラが使えなくとも、1/2確率的には順当だろう。



「やべえ……

 兄弟の活躍を指をくわえて見ているだけの転生ライフとか、シャレにならん」



── スーパーお兄ちゃんの活躍はこれからだぜ!

── ダメ弟なアット先生は、次の人生にご期待ください!


そんなのイヤすぎる!

打ち切りに容赦ない少年ジャ●プでも、最悪レベルの最終回だ!


そんな悶々としていると、ママンに呼ばれた。


今日は役所にお出かけらしい。

兄の入学の手続きがあるそうだ。


なお、兄ちゃん本人は、じいちゃん達に入学のお祝いを買ってもらうという事で、別行動だった。



「ママ、ちょっとお話してくるから。

 坊やは、ここで待っててね?」


「……うん」



ママンは、落ち込んでいる俺を見て、具合が悪いと思ったのだろう。

俺ひとりで待合室のベンチで待つように言うと、少し離れた窓口の列に並びに行った。



「さて、どうしよう……」



ダメ元で、また瞑想めいそうでもするかな。


転生神かみさま、せっかく異世界に転生したのなら、なんか特典とかくれよ。

願い事をかなえたいならドラゴンな七星球をあつめてこいとか、考え方ショーワなんだよ。

そういうのレーワじゃ流行らねえんだよ、わるいけど。


せめて無敵チート能力を手に入れるまでは、てつだつて!

転生神かみさまのやくめでしょ!


そんな事を思っていると、走ってきた7~8歳くらいの子供が、聞き捨てならない事を口走った。



「お父さん、お姉ちゃんの結果が出たよ!

 『輝士きし』に合格だって!」



(……うん?

 もしかして、まだ輝士きしの素質検査してる期間なのか?

 ひょっとして、この役所の中が、会場だったり?)



気になった俺は、待合室を出て、さっきの子供が走ってきた方を探す。

しばらく歩くと、オーラ検査会場らしき場所が見つかった。

中庭みたいな場所を抜けた先に、2階建ての別館。


その辺りに、人だかりが出来ていて、親子連れが泣いたり喜んだりしている。


俺は、人並みをかきわけて、会議室らしき場所にもぐりこんだ。

中では、10組くらいの親子連れが、ベンチに座って順番待ちをしている。

係員に呼ばれると、親が子を連れて行き、何かの測定器みたいな物に触れさせていた。


木の箱の真ん中に埋まった丸水晶が、ぼんやりと光る。



「……残念ながら、規定値には届いていません。

 不合格です」


「あぁ~……」



子供はしゅんと肩を落とす。

だが、連れ添った母親は、まんざらではなさそうな表情。



「残念だったわね。

 でも、軍人になって危険な目にあわなくていいんだから、よかったじゃない?」


「ボク、輝士になりたかったのにぃっ」



そんなやり取りをしながら、親子は出て行った。


そのまま見ていると、残り9組のうちに、合格者は1人だけ。

計測器の中央の丸水晶を、青くまばゆく光らせたのは、背の高い男の子だった。

他は、切れかけた電球のような、ぼんやりと淡い光がチラチラしただけ。


なるほど。

アレを強く光らせる程、オーラが強いってことなのか……。


そう思うと試してみたくなるのが人情だ。


満10歳の少年少女が、次々とオーラの検査を受けて、合否を告げられる。


まだ5歳児の俺は、それをうらやましく思いながら、ただただ見続けていた。





▲ ▽ ▲ ▽



いつの間にか、10組ほどの受験者は全員チェックが終わっていた。


最後の家族が、わいわいと盛り上がりながら出て行く。



(いいなぁ、オーラの才能があるって……)



いまの俺には、物欲しそうな目で見送る他ない。

すると係員の女性が一息ついて、大きく伸びをした。



「── あれ?

 そこのボク、誰かのお連れさんかな?」



ふと、部屋に残っていた俺に気づき、女性の係員が声をかけてきた。



「…………」



あ、ヤバい。

勝手に入ったとか知られたら、怒られるかも。

なんとか上手く誤魔化ごまかさないと。



「── あ、あのね……

 お兄ちゃんがね、きんちょーするって、おトイレいったのっ

 それでね……まだ、帰ってこないのっ」



俺は、見た目に相応の、たどたどしい口調で答える。

内心は汗だらだらだが。


だが、意外に女性職員は、優しい表情。



「あらら、そうなんだ。

 じゃあ、おねえさんちょっと休憩するけど、おうちの人がきたら教えてくれるかな?」


「うん、お兄ちゃんきたら、おねえさんにおしえるぅ」


「あと、この機械はとぉ~っても危険だから、勝手に触っちゃダメよ?」


「うん、わかったぁ。

 ボクさわらないよ」


「あら、ボク、いいこねー」


「うん、ボクいいこ!」


「じゃあ、おねえさん、こっちの部屋にいるからね?」



幼い子供の演技をしていると、女性職員は奥の扉をくぐり、ドアを閉める。

俺はそれを笑顔で見送る。


バタンと、ドアを閉められ、ふと気づいた。



(あれ、これってオーラ適性を検査するチャンスじゃね?)



1秒、2秒、3秒、4秒、5秒。

すぐに戻ってこないか、しばらく様子を見る。


念をいれて、ドアに耳をあて、様子を伺う。

大丈夫そうだ。



(よっしゃ! 今のうちっ)



女性係員がやっていた通りの手順で、スイッチを入れる。

10回くらい見ていたら、さすがに覚えた。


ブン……と、電化製品が起動するような小さな音が響く。


俺はもう一度左右を見渡し、女性職員が帰ってこない事を再確認。



(そう、確認は大事!

 安全作業の教本にもそう書いてある!)



前世の習性で、指差し確認を始める。

右、ヨシ! 左、ヨシ! 機械、ヨシ!

── 今日も1日ご安全に!


興奮のあまりちょっと訳の分からない事をしながらも、機械の金属プレートに手を当てる。



「さて、どうだ……?」



ビリッとする痛みと、酸欠のような息苦しさが襲ってくる。


少し我慢していると、水晶が黄色く輝き始めた。

水銀灯が点くように、ゆっくりと光が強くなる。


だが、水晶が黄色の光で、まばゆく輝く頃には、息苦しさも限界に達していた。

頭がズキズキと痛み、目眩さえ感じる。



「……うぷっ

 ……やばい、はきそうぉ……ぉおっ」



ともかく、合格をもらった少年と同じ程度には、水晶を光らせたのだ。

彼と違って青色ではなく、黄色の光だったが。

とにかく輝士の才能があることは間違いないだろう。


俺は、測定を切り上げ、小走りで部屋を抜け出す。

吐き気は、なんとか、トイレに駆け込むまではもった。


何も『ご安全に』じゃない1日だった。

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