第11話

 猫を救出し、俺たちはお守りを回収した。


「お守り、大丈夫か?」


「うん、少し歯形付いちゃったけど大丈夫!」


「そうか、ならよかった」


 猫はそのままどこかに逃げていった。

 そんな猫を見ながら、俺はその猫が凍りづけにされた時、どんな気分だったのかと考えてしまった。


「でも、驚いたよ! まさか水系の異能者だったなんて!」


「あぁ……まぁな、そっちこそ氷系でしかもあれだけの水を一気に凍らせられるなんて……」


 並大抵の氷系の異能者ではまず不可能だ。

 まさかこの子が俺を凍らせた犯人?

 いや、そんなわけ無いか。

 俺が凍らされたのは三年前、この子は恐らく小学生だ。

 そんな事が出来る訳がない。


「えへへ~凄いでしょ~。でも与那城君も凄いねぇ! 水の流れも操れるなんて!」


「あぁ……まぁな」


 凍らされてから俺の異能は増えると共に、出来ることも増えていた。

 昔だったらこんなことは出来なかった。


「私たち相性良いかもね!」


「ん? あぁ、まぁ水と氷だからな」


「私たちでタッグ組めば、きっとかなり強いよ!」


 タッグね……。

 俺は別に異能を使って誰かと戦おうなんて考えたことも無かったんだが。

 でも、もしあの俺を凍りづけにした奴を見つけたら、そいつを捕まえられるだけの力を身に付けていたいとは思う。


「あ、そう言えばお礼言ってなかったね! ありがとう! 一緒に探してくれて! おかげで見つかりました!」


「よかったな」


 嬉しそうにお守りを見せながら彼女がそう言う。

 もう時間も17時だ。

 完全に入学祝いのパーティーには遅刻だな。

「もう時間も遅いし帰ろっか」


「そうだな、帰り道だけ教えてくれ」


「あぁそうだね! じゃぁスマホを……ってあれ!? 充電切れ!」


「え? じゃ、じゃぁ地図アプリは?」


「き、起動出来ない……あ! でも私、モバイルバッテリーを!!」


「有るのか!」


「……コードだけ持ってきちゃった……」


「マジか……」


 やばい、これはヤバイぞ……。

 夕方の学校で迷子、しかも入学式の日にだ。 てか、広すぎなんだよこの学校!


「ここ、どこか分かるか?」


「わ、分からない……」


「だよな……」


 ヤバイ……お守りは見つかったけど、帰れなくなっちまった。

 どうする?

 闇雲に歩き回るか?

 それとも先生を探すか?

 どちらもこの広い校舎では一苦労だ。

 うーむ……。


「あ、そうだコード貸して」


「え? 良いけどどうするの?」


「ようは電気さえ有れば充電出来るんだろ? ならこうして……」


 俺は充電コードの端っこを右手で持ち、もう片方の手でコードを挿したスマホを持つ。

 このまま電気を弱く流すイメージで右手に電力を発生させれば……。


「お! ついたついた! これでなんとかなりそう……」


「え……与那城君って……雷系の異能も使えるの?」


「あ………」


 しまたぁぁぁぁぁぁ!!

 異能が二系統使える事が公にバレないように、絶対に雷系統の方の異能は使うなんて言われてたのに!!

 完全に油断していた……。


「あ、いやこれは……」


「凄い! 私始めて見た! 確か異能二系統使える人ってオルトロスっていうだよね!」


 二系統の異能を使える人間を世間ではオルトロスと呼んでいる。

 由来は二つの頭を持つとされる空想の獣から来ているらしい。


「あ、あのさ! このこと黙ってて貰えない?」


「え? なんで! オルトロスが同じ学校なんて色々自慢出来るのに!」


「いや……俺はまだ公式に認知されてないオルトロスで……俺は世間にオルトロスだって認知されたくないんだ」


 人体実験されるのは絶対いやだ!

 てか、俺の場合異能を三つ持ってんだし、オルトロスってよりはケルベロスじゃね?

 いや、今はそんな事どうでも良いか。


「そうなの? なんで!? テレビとか出れるじゃん!」


「それが嫌なんだ……俺は出来るだけひっそり生きていきたいんだ」


 もう既に三年間氷付けになる経験をしているからな。

 そんな大きな経験はそれひとつで十分だ。


「そうなんだ……じゃぁ言わない! 一緒にお守り探してくれたし!」


「頼むぞ、俺は水系統の異能しか使えない事になってるんだ」


「うん、わかった!」


 笑顔でそう答える彼女。

 なんだか少し心配だ。

 この子少し抜けてるとこありそうだし……。 その後、俺たちは充電されたスマホで地図をみながら学校を後にした。


「なんだ、幸城もこっちか」


「うん! もしかしてご近所さん?」


 意外にも俺の家と幸城の家の方向は一緒で、帰りの道の三分の二くらいの道を一緒に歩いてきていた。


「あ、そう言えば連絡……」


 パーティーに遅れるという連絡をすっかり忘れていた。

 スマホを見ると舞と聖からの連絡の嵐だった。

 ヤバいなぁ……きっと怒ってるだろうなぁ……。

 なんて事を俺が考えていると……。


「水面!!」


 ご本人が俺と幸城の前に現れた。


「舞、どうしたんだ?」


「どうしたのはこっちの台詞だよ! 入学式は午前中で終わってるはずなのにいくら電話しても出ないから!」


 凄い怒ってた。

 まぁ、それもそうか。

 事件に巻き込まれてこの間まで入院してた奴が、連絡も無しで帰ってこないのだ。

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