第3話
「なんだ、なんだ? 折角助かったのに、辛気臭い顔して」
「………そんなの当たり前でしょ……まだ口では理解出来ていても、頭の中では理解ができませんよ」
三年が経ったと自覚するしかないとわかっていた。
でも、俺の脳はまだここが三年後の世界だなんて理解できない。
処理が追い付いていない。
実感がわかない。
ただ、俺が住んでいたのとそっくりな別な街に居る気分だった。
「それより……異能ドクターが俺になんの用ですか?」
「あぁ悪い悪い、診察結果を伝えに来たんだよ。ご家族が来る前にな」
「診察結果?」
異能についての検査は定期的にある。
俺の異能は水を多少操る程度の能力だ。
平凡で凡庸な能力、舞のような強力な能力でもないので、俺は自分の異能について深く考えたことは無かった。
「そうですか……」
どうせさっさと済む話だ。
水系統を操作する能力、そう言われて終わりだろう。
そう思っていたが、その医者は俺の顔を見ながらタブレットを取り出し深刻そうな表情で話を始めた。
「君の体にはもともと水系統異能が備わっていた、それはこれまでのカルテを見ても明らかだ」
「はぁ……」
「しかし、今の君の体には水系統以外の二つの異能の反応が見られる」
「え……」
「正直、俺もこんなことは初めてなんだ、個人が所有出来る異能は大体一系統のみ、稀に二系統持つ人も居るが、君は今までに例のない三系統の異能を持っているんだ」
俺はそこまで異能に詳しくない。
しかし、一般的に二系統の異能を持っている人間というのがどんなものかを知っている。
発見されただけニュースになり、話題を呼ぶ。
それほどに珍しい事例だ。
それを上回る三系統の異能の所持……それは嫌でも周りに注目されてしまう存在になってしまったという事だ。
「な、なんで……普通異能は生まれつき決まっているのでは?」
「あー、そのはずなんだけどねぇ……俺も結果を見て目を疑ったよ。でも間違いないよ」
「お、俺は……どうなるんですか?」
冗談じゃないぞ。
三年経ったってだけでもパニックなのに、今度は事例の無い三系統の異能の所持なんて。
俺は静かに暮らしていければそれでいいんだ。
別に有名になりたいとかそんな願望は無い。
でも、今の俺って……三年間氷漬けにされた三系統の異能の持ち主って、かなりテレビ的に美味しい人になってるよなぁ。
「まぁ、本当なら専門の機材や研究道具の異能専門の医療機関に連れて行き、詳しく検査を受けさせるところだが……正直嫌だろ?」
「ま、まぁ……」
「まだ三年経ったことにも脳が追い付いてないんだ、まずは家族と会って元気な姿を見せてやりな。この話はその後詳しくだ」
「はぁ……」
「あぁ、でも念のため異能は使うな、今の状態で異能を使って体にどんな反応が起こるか分からないからな」
「わかりました」
「じゃぁまた明日来るから、またなぁ」
そう言って滝沢先生は病室を出て行った。
俺に異能が三つ?
水系統と残りはなんだろうか?
なんでそんな事になってしまったんだ。
俺は普通に学生生活を過ごして……普通に舞と……舞と恋人になりたかっただけなのに……。
「あれ……なんで泣いてんだ……」
色々なことがありすぎて混乱しているのか、それとも自分に起こった変化が悲しいのか。
俺は自分の良しとは関係なく、目から涙を流していた。
「う、うぅ……なんでなんだよ……」
戻りたい。
三年前のあのいつもの日常に……戻りたい。
でも、それは叶わないのだと俺は自分に言い聞かせた。
*
見舞いにきた両親は俺を見て泣いていた。
三年間見ない間に両親は少し老けていた。
母は俺に抱きつき、父は俺を見て笑っていた。
無事に目を覚まして良かったと両親はずっとそう言っていた。
そして、見舞いには両親以外もやって来た。
中学時代の同級生に同じ部活の友達。
学校の先生までやって来た。
嬉しかった、みんな俺をずっと心配してくれていたんだとそう思った。
でも、やって来る友人たちや知り合いを見るたびに思う。
俺は三年前に取り残されてしまったのだと知り合いと会うたびに感じてしまう。
みんなの前では笑顔でいた。
でも……俺は心の中で泣いていた。
「……疲れたな」
みんなが帰った病室で俺は外を見ながら考えていた。
俺が眠っていた三年でみんな成長している。
高校生活を終え、今年でみんな卒業だと言っていた。
俺の記憶の中ではみんな中学も卒業していないはずなのに……。
「………これからどうなるんだよ」
ため息しか出なかった。
仲の良い友達はみんな先に大人になってしまった。
俺は中坊のまま。
そして舞はどうしているのだろうか?
目覚めてから色々あったが、俺は舞の事が気がかりだった。
あの後、無事にあのフードの男から逃げることが出来たのだろうか?
怪我してないだろうか?
そんな事を考えていると、俺の背後の病室の扉が勢いよく開いた。
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