第2話



 夢を見ていた。

 真っ白な世界に真っ黒な何かが迫って来る変な夢だ。

 真っ白な世界は真っ黒になっていく。

 でも、赤・青・黄・緑の四つの球体が黒い何かを止めていた。

 なんなんだろうこの夢は……。

 そんな事を考えているとその景色は遠くに行く。

 そして、俺は目を覚ました。


「………」


 何かのカプセルの中のような場所だった。

 俺はなぜかずぶぬれだった。

 そしてうまく言葉を発することが出来なかった。

 なんでだろうか?

 でも、これだけは分かった、

 俺はまだ生きている。

 あれからどれくらい時間が経過したのだろうか?

 舞は無事だろうか?

 そんな事を考えているとカプセルが開き、一人の男性が俺の顔を覗いてきた。


「おぉ!! 意識が戻った!! 君、大丈夫か? 話せるか?」


「……あ……う……」


 氷漬けにされていたからだろうか、俺は美味く話せなかった。

 男性は良く見ると白衣を着ていた。

 恐らく医者なのだろう、氷漬けにされていた俺を助けてくれたのかもしれない。

 俺はその医者に手伝ってもらい、上半身だけを起こした。

 俺が居た部屋は病室だった。

 ただ違うのは、その病室には大きなガラスがあり、ベッドではなく俺の寝ていたカプセルがあることだけだった。


「言葉は分かるかい? わかるならうなずいてくれ」


「………」


 俺はこおくりとうなずく。

 すると、医者はニコニコしながら拳を握った。


「よしっ! やった! 助けることが出来た!!」


 俺を助けたことがよほどうれしかったらしい。

 医者は涙を浮かべていた。

 すると、部屋の中にどんどんと他の医者や看護婦さんが入って来た。


「先生! バイタルも安定しています! 奇跡ですよこれは!」


「あぁ、本当に長かった……良かった……良かった……」


 そんなに嬉しいことだったのか?

 この異能に溢れた世界では氷結の人間なんて珍しくないはずだ。

 治療方法も確立させているはずなのに、なんでこの人達はこんなに喜ぶんだ?


「三年……長かったな……でもよかった! 本当に!」


 涙を流して医者はそう言った。

 三年?

 一体この医者は何を言っているんだ?

 俺は違和感に気が付き始めた。

 段々と体も動くようになってきた。

 俺は顔を動かし、病室に掛けられたカレンダーを目を向ける。

 そこに掛かれた日付は俺の知っている年数から三年の月日が経って居た。





「ど、どういうことなんですか」


「君は三年間あの氷の中に閉じ込められていたんだ」


 俺は話が出来るまで回復し、先ほどの医者に状況の説明を受けていた。

 医者の話はこうだった。

 俺は氷漬けにされ、そのまま病院に運ばれ解凍治療を受けたのだが、氷はどんな解凍方法でも溶けることは無かったらしい。


「異能をつかった治療もしたが、どれも意味をなさなかった。こんなことは事例が無く、君は氷漬けのまま三年間眠っていたんだ」


「そんな……じゃ、じゃぁ俺は……今は18歳って事ですか?」


「あぁ……受け入れがたいのも分かるが、それが現実だ」


 嘘だ……俺はちょっと眠っていただけだったのに……なのに三年もの月日が?

 そう言えば舞は?

 舞はどうなったんだ?


「あ、あの……当時俺と一緒に居た女の子は?」


「あぁ、彼女は擦り傷程度の怪我だったのを覚えているよ。ずっと自分を責めていたよ………君を助けられなかったのは自分のせいだと」


「………」


 舞……。

 三年が経ったって事はあいつも18歳になってるのか?

 というか、高校は?

 家族は?

 友達は?

 考えることが多すぎる……俺の頭はパンク寸前だった。


「もうすぐで君のお父さんとお母さんもやって来るよ。きっと喜ぶよ」


「そう……ですか……」


 医者の言った通り、間違いなく三年の時が経って居た。

 携帯端末は三年でもっと便利になっており、好きだったニュース番組のお天気お姉さんは別な人になっていて、新聞ニュースは訳が分からない事ばかり。

 

「三年……本当に……」


三年後の三月に俺は来てしまった。

 戻る事なんて出来ない。

 いくら何でも三年ではタイムマシーンは出来ていない。

 あの日、俺は舞に告白して、高校三年間を舞と過ごすはずだった。

 なのに……。


「くそっ!!」


 俺は病室の壁に向かって枕を投げつけた。

 なんでこんな事になったんだ?

なんで俺がこんな目に合わなきゃいけないんだ!!

 三年前に俺だけが取り残され、俺は段々とあの白いフードの男に苛立ちを感じるようになっていた。

 そんな事をしていると、今度は別な医者が病室に入って来た。


「おぉおぉ、三年氷漬けだった割には元気じゃないのよ」


「なんですか?」


 その医者は医者というのは酷くだらしない恰好だった。

 髪は寝ぐせが付いており、ひげを伸ばしたまま、しかも派手な私服に白衣を着ている変な医者だった。


「自己紹介がまだだったな、俺は滝沢幸地(たきざわ ゆきじ)異能ドクターだ」


「異能ドクター?」


 聞いたことがある、異能によって未知の症状やけがをした患者専門の医者。

 異能ドクターは怪我を癒す異能を使うことが出来、異能の研究もしていると。

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