1話 「出会い」


 一年後、憑神市──


 「ああ、物騒な世の中になったな」


 テレビでここを騒がせてる大量殺人についてが話されている。

 ここまで五十名が殺害されており、犯人は未だに見つかっていない。

 何しろ痕跡すら無いのだとか。

 そのため、今日も俺の大学は休みだ。

 

 『そうだな。まぁ、お前も気をつけろ』


 「そうだな」


 そうして俺はスマホの電源を切る。

 電話の相手は同じ大学で、同じ神話学を専攻してる日笠篝だ。

 とてもいい奴で、イケメンだと思う。

 俺は違うけど。

 俺、蒼井星夜あおいせいやは、小学生のころから成績も平凡だし、顔も普通だし。

 普通を具現化したような存在だと思う。

 そんな平凡が嫌で、神話学なんていう珍しいことを学んでいるけど、優秀な篝と違って俺は落ちこぼれだと思う。

 神話なんてさっぱり分からん。

 

 「やるか……」


 仕方なく大学から出された課題をする。

 ギリシャ神話について興味があることをレポートにして提出しろというやつだ。

 

 「ポセイドン……」


 ギリシャの海の神。

 全知全能の神ゼウスの兄。

 俺はそのポセイドンの絵を見ていた。でも別にポセイドンを見ている訳じゃない。

 その戦車を引いている海馬に興味があった。

 青く美しい下半身が魚のような馬。

 海を走り抜けるその姿がとても綺麗で見惚れた。

 

 「この神獣について調べるか……」


 名前はヒッポカンポス。

 ポセイドンの戦車を引く馬。

 パソコンで調べてもそれしか出てこない。

 そりゃそうだ。

 あんまり逸話の無い神獣だからな。

 

 「あ~あ、めんどくせー。こいつは書き辛いからやめようかな」


 そう思って本を閉じた。

 その瞬間だった。


 部屋の周りが青白く光り輝く。

 電灯のものとも、炎とも違う。

 この人類世界にある光のどれとも違う。

 そしてその光が広がり、狭い部屋に幾何学的で複雑な魔法陣が現れた。

 まるで湧き上がるように。

 青白い粒子を纏うようにして、人の形を作りだした。


 「どうやら、どこかの部屋に来てしまったらしい」


 現れたのは白銀の鎧を着た青年。

 まるでギリシャの兵士のような格好だ。

 人間離れした綺麗な顔立ちだ。

 青い髪が良く似合う。


 「え?えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」


 「あ!」


 俺が大声を上げるとその人は振り返り、俺の口を手でふさいだ。

 

 「静かに!」

 

 目を見開き、今にも俺を殺しそうな形相でそう言う。

 だが、彼は俺を殺そうとはしなかった。

 

 「はぁ、人間に見つかるとは……」


 泥棒?

 違うな。

 光り輝きながら出てくるわけがない。

 じゃあ、彼はなんだ?


 「おっ、お前は!誰なんだ!」


 「だから、静かに」


 口を開こうとすれば容赦なく口を塞ぐ。

 そうして、彼は静かに語り始めた。

 

 「僕はヒッポカンポス。神獣だ」


 「はぁ!?」


 彼はいきなり、さっきまで調べていた神獣の名前を口にした。

 ありえない。

 でも、信じれてしまう。

 先程の神秘的な出来事。これが何かのトリックなのか?

 そうとは思えない。

 

 「まぁ、とりあえずお茶飲む?」


 「え?すまない」


 彼は、よく見ると大人しい青年だ。

 先程の殺気も今は感じない。

 この、不思議な鎧をつけていなければだけど。


 「はいこれ」


 「ありがとう」


 彼は、緑茶をおいしそうに飲む。

 今まで飲んだことが無いらしい。見たところ外国人みたいだし、それもそうなのかな。

 

 「それで、本当にこの神獣なの?」


 俺は彼の前に座り、資料の絵を見せる。

 すると彼はとても驚いてその俺から資料を奪った。

 

 「え!こんなにも鮮明に僕の絵があるなんて」


 「そんなに珍しいのか?

 

 彼は嬉しいのか、笑顔で話してくれた。

 俺の中でも、彼が怖い人じゃないと言うのが分かる。


 (人でいいのかな?)


 「神々の間では、神秘の隠匿は絶対だからね。でも、みんな破っていたけど……」


 「あぁ、そうだろうね」


 俺の知る限りでも、ギリシャの神々はいい加減だ。

 エロい奴しか居ねぇし、不倫するし、神秘の隠匿って言われてもパッとしない。


 「君の質問に答えてなかったね。

 そう。僕はヒッポカンポス。ポセイドンの神獣だ。」


 「そう言われてもやっぱり信じられないよ。どう見ても人だし……」


 彼はしばらく黙っていた。

 悩んでいると言った方がいいだろうか?

 俺の言ったことについて、深く考えているのが分かる。


 「ちょっとついてきて」


 彼がそう言うと、俺の手首を掴んで外に連れ出した。

 アパートの外は冷え込んでいて、住宅街は夜の静寂に包まれていた。

 彼はそのまま裏にある小規模な山の中へと行く。


 「おい、どこまで行くんだよ」


 「ごめん。人に見られるわけにはいかないからここまで来たんだ」


 暗がりの山の中。

 星夜とヒッポカンポスは向き合っていた。

 殺されるのかと思ったが、そうでも無かった。

 彼は俺をまっすぐ見つめて言った。

 

 「今から僕が見せることを、誰にも言ってはいけないよ。もし言ったら、僕は君を殺さなければいけなくなる。出来ればしたくないんだ。……そういうことは」


 彼はどこか寂しそうだ。

 俺は、先ほどまで彼が振りまいていた。息が詰まるような殺気に押されて感違いしていたようだ。彼は心優しいのだろう。

 なら、俺も約束を守ろう。


 「わかった。言うとおりにするよ」


 「ありがとう」


 彼は星のような笑顔でそう言うと、目を瞑り、何か呪文のようなものを唱えた。

 そうして彼の体は青白く光り輝き、人であった体はどこか消えていた。

 代わりに居たのは……


 「馬?魚?」


 上半身が馬。

 下半身が魚の動物がいた。

 青みがかった白色で、とても綺麗だ。

 まるで、神様のような。

 そんな感じ。

 

 「これで、僕が神獣だってわかってくれた?」


 「え?」


 しゃべった?

 目の前の動物が?


 「どうしたの?」


 「あっ、いや……」


 うん。

 認めざるを得ない。

 彼は神獣。

 神獣ヒッポカンポスなんだろう。

 今まさに、俺の前にいるんだ。この、憑神市に。

 

 「信じるよ。君が、あの神獣だって」


 「ありがとう」


 馬だからかな?

 表情が読み取れない。

 でも、彼はきっと笑っているんだろう。

 なぜだか、それだけは分かった。

 

 「俺、星夜。蒼井星夜」


 「せいや……。うん、よろしく」


 俺と彼は、この日に友達となった。

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Bonds:ラグナロクⅡ~神獣戦争 白糸総長 @siroito46110

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