美味なる200gサーロインの食べ方

只野夢窮

丁寧にそして豪快に喰らえ

さて200gのサーロインがすてきにここにある。

しかも三枚もある。

さらに、それは名のある銘柄の牛である。そしてもちろん小さく切ってなんかいやしない。


薄いが面積は大きい、かといってフライパンで焼くのに難儀はギリギリしない程度の、

理想的ですてきなステーキ肉である。

完全な円が存在しない様に、完全なステーキ肉など存在しない。

けれどもそれは十分にそれに近い。


これをどう食べるか検討するのである。

まず第一に、解凍は冷蔵庫において、一日じっくりとしてやらなきゃあならない。

常温だの、レンジだので解凍するようなやつは、なあにもわかっちゃいない。

そんなに急いでいるなら安い肉をスーパーで買ってきて、そのまま焼けばいいのだ。

いい肉には相応の下準備と言うのが必要なのである。

いい人生に相応の忍耐が必要であるように。

そしてむろんドロップは丁寧にキッチンペーパーでとってやらないといけないが、

いい肉を丁寧に解凍すれば、ほとんどドロップは出ないものである。


第二に、片面にしっかりと塩コショウを振ってやらないといけない。

肉の油のうまみが強いから、塩コショウを多少たくさん振ったって肉の味がわからないなんてことはない。

まさに肉の貴族、サーたる所以である。

懺悔すると私は一枚目を食べる時に塩コショウを躊躇した。薄い肉だから調味料の降りすぎはよくないだろうと。

もちろん美味だったがもっと塩コショウを振ってよかったと思った。

だから二枚目でもうびっくりするぐらい振った。


おいしかった。


塩コショウはプライベエト・ブランドのやすっちいもので構わない。

高尚な塩コショウがあるならそれに越したことはないがね。

主役は、あくまでも肉だ。


第三に、解凍してやったら二つに切り分けなければならない。

100gと、100gである。

これを読んでいる君がよほど健啖家ならそうではないだろうがね。

サーロインとはとんでもなく油が多く、そして美味である。


食べるのがね、おいしいのにね、辛い。

20代も後半を回り込むと200gのサーロインが食べられない。

時の流れは残酷である。

だから最後のほうになると食べるペースがゆっくりとなる。

冷める。これが良くないことは言うまでもない。

だから半分に切る。そして200gを解凍してやり、半分に切って、半分を昼に、半分を夜に食べる。

え? 朝?

馬鹿いうでないよ。こんな重いものを朝に食べたら胃がおかしくなってしまう。

常住礼拝で罰を受けて床の埃を舐めた、一年目の修道女がごとくにね。


第四に、焼くのはすぐやめてやらないといけない。片方が赤くなくなったら、

火を止めてひっくり返し、もう片方を予熱で焼くだけでよい。

余熱で焼くということを知らない人が両面を焼くことは罪である。

死刑囚ですら一度しか火刑に処されないというのに、ステーキを二度焼くというのはとんでもない話である。

絶え間ない業火はサタンのためにとっておきたまえ。


そうして食べる!油が広がる!美味!

さあ君も和牛を買って楽しもうね!


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美味なる200gサーロインの食べ方 只野夢窮 @tadano_mukyu

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