第5話 秘密にしてね

 廃墟の階段を上る。

 もちろん、お断りしたかったが、俺は小指を捕まれているため、目の前の美少女に引き回されるままついていくしかない。


 タン、タン、タンと俺の小指をつかんでいるくせに美少女はまるでリズムをつけるように階段を上る。

 まるでわざと足音を立てて居るみたいだ。

 楽しいよって誰かにつたえるような足音を。


 俺も彼女にひっぱられているので、同じリズムで階段を上る。


 タン、タン、タン

 たん、タン、タンッッ


 彼女の真似をしてリズムよく階段のステップを蹴ったはずなのに、何か違う足音が響いた。


 そのリズムを聞いてなのか、俺の小指をつかんだままの美少女は「クスッ」っと笑った。

 ぶつかった瞬間以外、ずっと感情を押し殺しているみたいで感情が表にでてこなくて心配だったけれど、その「クスッ」で少し安心する。

 ちゃんと、笑ったところが見たいと思った。


 きっと、笑わなくてもこんなに綺麗で可愛い女の子なんだ。

 笑ったら、きっともっと魅力的になるだろう。

 まあ、俺はラノベやギャルゲーの主人公じゃないから、それをどんな風にどんなタイミングで女の子に伝えれば良いか分からないけれど。


 長い廊下を歩く。

 古ぼけてはいるが、赤い絨毯が敷かれている。

 まるで海外の大きなお屋敷のようだ。

 そうだ、たしかそういうコンセプトでここは出来ているのだ。ちょっと前に廃墟関係のブログをあさったのを覚えている。


 十五年くらい前には廃墟ブームとかいって、廃墟の写真集がでるくらいはやっていたらしい。より等身大っぽい情報を探すならやっぱり自分と同じ素人のものがよかった。

 親戚のおじさんにその話を偶然したら、「ブログを検索条件にかけてみると良いよ」と教えてくれた。

「まあ、インターネット老人のいうことだからあんまり当てにならないけど」なんて笑いながら。アラサー独身底辺貴族を自称するおじさんは俺とにていて自虐的なところがある。


 昔、ブームが起きた頃のブログなんかも残っていればいいのだが、更新がないどころか最近はブログというものがサービス自体終了してみることができなくなっているらしい。わずかに残ったブログのリンクをたどろうとしても、たどれないブログが多かった。

 まるで地質学者にでもなったような気分だ。

 ちょっとずつ、当たりをつけて掘っていく。


 大抵は外ればかりだけれど、すこしずつ層を見ていくと歴史の変化が見られる。

 最初はただ、廃墟ってエモイみたいな感じだったのが、いつの間にか商業的に写真を撮る人が現れてみたいな。そして、メジャーになりすぎて飽きられる。

 なんというか、今も昔もやることは余り変わりないんだなあって感じだ。


 そんなことを考えていると、耳もとにふわりと息がかかった。

 小指はさっきまでより強く握られる。


「この部屋でみたことは絶対に秘密にしてね」


 甘い声が風になって俺の耳の穴をカタツムリのようにねっとりと犯した。

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