第3話 小指をつかまれて

「ご、ごめん!」


 自分で思っていたよりも大きな声がでた。

 こんなに大きな声を出すなんて久しぶりな気がした。

 目の前の女の子はアーモンド型の美しい目を大きく見開いていた。

 俺がどうしていいか分からずに戸惑っていると。


「どいてください」


 すごく冷たい声が飛んできた。

 綺麗だけれど、感情がないというか……。


「あ、はい……。すみません」


 俺は慌てて彼女の上からどく。


「……」

「あのー、怪我とかないですか」


 目の前の女の子の無言が怖くて、そして女の子に怪我させてないかも純粋に心配で聞く。


「……」


 だけれど、彼女は返事をしない。


「あ、あの。大丈夫?」


 もしかして、脳しんとうでも起こしていないか心配になって、俺は目の前の美少女の顔の前で手をひらひら振る。


 ガシッ


 急に振っていた手の指を捕まれる。薬指と小指をまとめてにぎられていた。抵抗できない。俺の薬指と小指がぎゅっと女の子の手に握られているのだから。女の子の手はとても冷たかった。まるで氷みたい。女性は冷え性とかあって大変だななんて、どうでもいいことが頭の中によぎる。

 しかし、痛い。薬指は一本だけで動かすのは難しいし、小指は圧倒的に強度が弱い。女の子の小さく華奢な手だといっても俺は逃れることはできなかった。


「えっと……これは?」

「いいから、付いてきて」


 女の子は俺の耳もとにボソッと囁いた。


「えっ、いや……」

「いいから来て」


 そう言って女の子は歩き出した。薬指は開放され、小指だけが彼女に捕まれている。

 痛い。

 そして、恐らく小指一本ならば女の子であっても骨折させることができるだろう。

 俺は仕方なく、彼女にひかれるままに付いていく。

 まるで、首輪を着けられた犬みたいだ。

 飼い主より、速く走ることもできるし、かみつくことだってできるのに、おとなしく飼い主に従うことしかできない犬。

 それが今の俺の状態だった。


 なぜだか、すごくドキドキした。

 だって、見たこともないくらい綺麗な女の子。

 まるで妖精みたいな女の子が現れたんだ。

 その女の子に出会ってすぐに手を握られて、どこかについてきてほしいと言われる。

 まるで何か物語りの始まりみたいだ。


 中学の時に読みふけった小説たち。

 つまらない日常を送っていた主人公が、ある日、不思議で魅力的な女の子と出会って世界が大きく変わっていくって。


 俺のそんな想像お構いなしに、女の子はずんずんと歩いて行く。

 もちろん、俺の小指を握ったまま。

 駅とは反対の方向だった。


 どれだけ歩かせる気なのだろう。

 もしかしたら、こっちに異世界へ行くためのゲートとかがあるのかも。そうだよなあ、人目に付くところじゃまずいもんなあ。

 俺はそんなことを暢気に考えながら、銀髪の美少女に手、もとい、小指をひっぱられつづけた。

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