第2話 ココア
「じゃあ、俺、放課後は彼女とデートだから~」
大河内は手を上げて、シュタッと音が立ちそうな勢いで放課後ダッシュを決めやがった。こいつ、将来社会人になってもきっと定時ダッシュを決めるタイプだ。だけれど、なんだかんだ人なつこい性格なので可愛がられるんだよなあ。
俺はとりあえず頷く。
本当はもっと茶化し合えれば俺だってもっと色んな人と仲良くなれるのだろうが、どうしてもあと一呼吸、俺は遅い。
でも、下手にはしゃいで人から変な目で見られたら怖いんだ。
大河内からひかれたら立ち直れない。
俺は、図書室に寄ってから帰ることにする。
好きな本に囲まれて楽しいはずなのに、物足りない。
なんだかんだ、大河内と一緒に帰るのが楽しかったんだなと、自分のさみしがり具合にちょっと自嘲気味に笑う。
大河内の言うとおり俺も彼女を作るべきかもしれない。
まあ、彼女作りたいと思って作れるのなら、苦労はしないんだけどな。
今日は少し冷えるので、学校の隣にある雑貨屋でココアを買う。
本当はブラックコーヒーの方が大人っぽくて格好がつくのに、やっぱり甘いココアを求めてしまう。
コーヒーは苦すぎるのだ。
前に一度、格好をつけてシアトルコーヒーを頼んでみたら、まるで太田胃散をぶち込んだカフェラテだと思った。
「おじさん、ココアを一杯」
「おっしゃ、三百万円ね」
何故か洒落たものを取り扱っているくせに、ここの店主はむさ苦しいおっさんなのだ。
なぜだか、夜店の屋台のおっちゃんのように、「〇〇万円」という言い方をするのがうざいけれど女子からは、結構評判がいいらしい。
まあ、これだけ美味しいココアがでてくればそれで十分だろう。
俺は「ふう、ふう」と大河内がいたら「女子かよっ!」って突っ込まれるようにカップの蓋をとって、ココアを吹き冷ましながら店をでたときに問題は起きた。
「きゃっ……」
「……あっ!」
高い悲鳴を彼女があげるのと、俺が状況に気づいてなんとかリカバリーをとろうとしたのはほぼ同時だった。
俺は一人の女の子とぶつかってしまったのだ。
すごく可愛い女の子。
真っ白な肌に月の光を集めたような銀色の髪、湖のような神秘的な瞳。すごく幻想的でまるで妖精のようだった。
可愛いという印象の影に、儚さが一瞬だけ見え隠れした。
ぶつかった瞬間、花と蜜を煮詰めたよな甘い香りがした。
頭がくらっとするくらい甘い香り。
そして、そのあとにココアの香りが広がって……。
手元をみると、紙製のカップからココアが飛び出して、ほとんどははねたあとにカップに戻り、いくらかはコップの外にまるっこい粒になって飛び出し、居場所がなく地面に着地しようとした。
そして、さらにアグレッシブなココアの滴は可愛い女の子めがけて飛んでいった。
まるで、こんな陰キャではなく美少女に飲まれたいとでもいうように。
そして、反射的になぜだかその粒を防ごうとした俺は、気づいたときは美少女の上に覆い被さっていた。
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