第1話 親友

「なあ、お前も彼女作れよ~。早く、ダブルデートとかしようぜ」


 最近、親友の大河内がうざい。

 でも、そのうざさも仕方がない。なんていったって、大河内に春がやってきた、つまり彼女が出来たのだから。


 なんでも、すっごくカワイイ彼女らしい。

 サラサラなセミロングの黒髪に雪のように白い肌。流れ星が彼女に一目惚れして彼女の瞳に収まったのかと思うくらいキラキラと輝く瞳。


 なんて大袈裟な表現だと思うけれど、それくらい大河内はその女の子に惚れているのだろう。

 高校入学以来ずっと、「彼女が欲しい~!」といっていたから今の大河内は幸せの絶頂だろう。

 射精だけはしないでくれと心のなかでからかっておくだけで勘弁してやる。


 大河内は良い奴だ。

 でかい図体に色素が薄くて太陽の下では金色に見えないこともない髪。最初にみたとき、恐ろしいやつだと思った。

 とにかくでかい。

 実際、ドラえもんが現実世界の話だとしたら、のび太はジャイアンにきっとこんな威圧感を感じているだろうなという感じ。

 だけれど、大河内はジャイアンみたいなガキ大将じゃなくて、たとえるならば、大型犬。人なつこいゴールデンレトリバーだ。


 なぜだか、俺は大河内に気に入られて、『彼女作ろう、青春同盟』なんてものを勝手に作られてしまった。

 本当に勝手だ。

 大河内は怖そうな見た目に反して性格は人なつこく、知れば知るほど魅力的な人間なのに、俺ときたらただの陰キャだ。


 高校に入るまでは俺だったもう少しマシだった。

 そこそこ真面目で勉強ができる生徒。

 先生からも信頼されて、勉強ができるやつからかなりやばいやつまでごった煮状態の中学では学級委員長とかはやらないけれど、そこそこなんでもこなせる優秀な存在って感じだった。


 なのに、高校に入るとそれは変わった。

 ウチの学校は進学校に分類される。

 中学の頃までは、当たり前のことをやっていれば、そこそこの成績を維持できた。だけれど、今はその当たり前のことのレベルが高すぎる。中学より難しい内容の予習復習に小テスト。それを周りが当然にこなしていく。


 俺はあっというまに、落ちこぼれ側の人間になってしまった。


 これで、大河内みたいにキャラがたっていれば高校生活も楽しかったかもしれない。けれど、俺は目立った何かはない。

 落ちこぼれの陰キャ、それが俺が今の自分を客観的にみた評価だった。

 そんな俺に物語みたいに、ある日、素敵な女の子が現れて人生が変わるなんてことはある訳がなかった。

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