第23話 絶望する元天使と嘲笑う悪魔。
「あはははははは!! 本当におめでたいわね、天使ってやつは!」
突如ミカエルが取り落とした槍を持ち、仲間であるはずのフェルの身体を刺したイネイン。
あまりのことに、フェルもミカエルも茫然とするだけで動くことができなかった。
「ぐふっ……どういうことだ、イネイン! お前、いったい何を……」
口から灰色の粒子を血反吐のように噴き出しながら、彼女の凶行の理由を問い詰めるフェル。
白銀の剣を杖のようにして立ち続けているが、非常に苦しそうだ。
その様子を見て、先ほどまで愛を語っていた相手に向かって可笑しそうな表情で話しかけるイネイン。
「どうしたもなにも、ずっと私はこのタイミングを狙っていただけよ。ホントにバッカよねぇ。ちっとも疑いもせず、何年もの間私のことを愛したオンナだなんて思っていたんだから」
「……何を言っている? お前は、俺が身体と心臓を使って蘇らせた真琴のはずだ! もしや真琴に悪魔が憑依したのか!?」
フェルの言う通り、彼が回収した真琴の身体に悪魔フェイトの心臓を移植して蘇生させたのが今のイネインだったはず。
それが違うというのなら、今目の前に立っている女はいったい誰なのか。
「はははは! だからそこがおめでたいって言ってるのよ。その真琴ってオンナは最初っからとっくに死んで魔界に落ちてるわ。私はただ、それらを使って憑依しただけ」
ということは、フェルが彼女の身体を再生させた時点で意識があったのは真琴ではなく、この悪魔イネインのものだったということだ。
そしてそんなことが可能だった悪魔は1人しか居ない。
「ま、まさかお前は……」
「そうよ、私は真琴ってオンナの中に生まれた悪魔。あの女を殺し、心が弱っていたアンタを私が唆して、私と契約させたの。っていっても、そこ辺はもう覚えていないでしょ?」
イネインの言葉に思い当たる節があるのか、愕然とするフェル。
彼の記憶がどこまで残っているのか分からないが、もしかすると真琴との思い出もどんどん薄れていっているのかもしれない。
「悪魔についての知識、それを提供する代わりに記憶が無くなっていくって言ったわよね? それ、実は私が貰っているの」
悪魔との契約。
契約者は何かを代償に、悪魔のような力を得ることができると言われている。
先日のブラック企業の専務は他人を思うように支配する能力を得ていたが……逆に悪魔によって身体を支配されていた。
つまり、フェルは契約によって得られた知識の代償は、フェルの記憶を悪魔に引き渡すということだったのだ。
「そんな!? お前は確かに悪魔の知識を使えば真琴は蘇ると言っていたじゃねぇか!」
「だからこうして蘇ったじゃないの……身体は、ね。しかもアンタの記憶を使ってなり切ってあげるっていうサービス付き。なぁんて優しいのかしら、私」
「そんな、有り得ねぇ……じゃあ俺が今までしていたことは……」
そして悪魔は真琴の身体に憑依することで、フェルを思うままに操った。
記憶を奪うことで真琴になり切り、更には自身を強化するためにクロを集めさせたのだ。
「そうよ、それそれ!! その絶望が欲しかったのよぉ。ここまで演技した甲斐があったわぁ。最高の身体に、勝手にクロを集めてくれる馬鹿。そしてこれから最上のクロをくれるなんて。ねぇ……元天使長たちが消滅したら、いったいどれだけのクロが集まるのかしら? あははは! すっごく楽しみだわぁ~」
「くっ……このっ……!!」
フェルは能力を使ってイネインを攻撃しようとするが、その前にイネインの泣きっ面に蜂の能力で腹に開けられた傷口を抉られ、中断させられてしまう。
なにより、悪魔だと言っても愛した人の顔をしているのだ。
そう簡単に全力で刃を向けられるわけが無い。
「フェル……」
かつて憧れた師の痛々しい姿。
天使としての立場、記憶、存在の全てを懸けて救おうとした人間にボロボロにされていく様は、彼を殺そうとしていたミカエルですら助けたくなる衝動に駆られるほどだった。
「さぁ、もっと絶望しなさい!! 心から愛した人間に殺される恐怖!!
ミカエルの槍で
最初は抵抗していた彼も、次第に動きが悪くなっていき……最終的には崩れるように床に倒れ込んだ。
「あら、もう終わり? つまらないわねぇ。せっかく長年付き合ってくれたお礼をしようと思ったのに。まぁいいわ、来世で悪魔にでもなったらまた可愛がってあげる。ばいばぁい~」
槍を振り上げ、フェルの心臓を突き刺さんとしたその時。
「……そこまでにしておけよ。このクソ悪魔。ソイツはボクの仇だっつってるだろ」
立ち上がったミカエルがイネインの前に立ちはだかった。
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