第22話 悪魔に苦戦する天使。

「そうだ。俺は天使としての構造は詳しかったが、悪魔についての知識には乏しかった。だから俺は悪魔と契約し、知識を得た。だがその代償の一つとして、少しずつ記憶がなくなってしまうようになった」



 悪魔と契約したという元天使長フェル。

 天使としての存在に限界を感じた彼は、人間界で見つけた悪魔と契約をしたらしい。

 そして悪魔の生態や体内構造について知識を得たことにより、シロとクロが混在していた最愛の彼女を復活させる為の行動に移したのであった。たとえいつか記憶が無く経ってしまうとしても。


「過去の記憶に縛られるより、これからの記憶を新しく作っていけばいい、俺はそう決意して研究を急いだ」

「つまり、アンタはフェイトの心臓が最初から目的だったというわけか?」

「そうだ。当時はアイツほど丁度いい存在は居ないと思ったね。……だが真琴には完全には適合しなかった」


 そして今度は狙いを白黒のマガイモノ、リィンに狙いを定めたのだろう。


「この間、お前たちがクロの回収の為に都市にばら撒いていた悪魔を消滅させただろ? その時に確認しに行ったら運よくお前らを見つけてよ。これはもう運命だと思ったね。まさか、こんなに綺麗に混ざったマガイ《魔骸》モノが見つかるなんてな! 天は俺を見放してなかったってか? クハハハ」


 悪魔のむくろが入っている、マガイモノ。天界ではみんなに嫌われ、愛に飢えていた彼女が、まさかこんな反逆者に心から求められていたとは……可哀想に。


「つまらない冗談を……だが何故、街に悪魔をばら撒いたんだ?」

「あぁん? そりゃフェイトの心臓のシロがイネインには強過ぎたんだよ。身体がシロに耐えきれず、クロを集めて中和する必要があったんだ。この微調整もミスると直で消滅するからヒヤヒヤだったぜ」

「……? そんなことで悪魔を……」


 そんな身勝手な理由でこの国をメチャクチャにしていたのか。

 自分の愛する人さえ生きながらえる為ならば、他の人間や天使、更には悪魔でさえどうでもいいと思っているに違いない。


「で、どうする? お前も俺に協力するか? それとも……悪魔と契約してみるか?」


「そんなもの……ボクは……ボクは!!」


 親友をすぐに取り戻せるという葛藤と戦い、そして決意した。



「――それがお前の答えか」

「ボクはアイツと……フェイトと最期に約束したんだ! 絶対に忘れないって! それに誰かを犠牲にしてまで復活させたところで、アイツは喜ばない。ボクを殺すまでボクを許さないだろう」


「そうか……残念だ……」



『嘘から出たまこと』――崩壊セヨ


『売り言葉に買い言葉』――撤回させろ!


 槍と剣の応酬をさせながら、言葉でも戦闘を行う。

 嘘から出た実により、何も起きていなかったはずの教会の天井が音を立てて崩壊しかける。

 それをミカエルがフェルに能力を行使、更に実を嘘にすることで崩壊を無かったことに。


 フェルは莫大なHPを、そしてミカエルは有限の金を消費することで拮抗した戦いを見せる。

 しかしこの場には、他にも悪魔が居ることを忘れてはならない。


「――イネイン!!『嘘から出た実』――爆発セヨ」

「分かりましたわ。『泣きっ面に蜂』――爆発セヨ」


「なんだって!?」


 ――バァン!!


 突如、ミカエルの眼前で爆発が起きる。

 それを盾を使って衝撃から防御することに成功するが、後方に吹き飛ばされた。

 そして飛ばされた先に、さっきまでは無かったはずの燭台が転がっており、運悪くミカエルの太ももに突き刺さった。


「ぐううっ……なぜ、こんなところに? しかも今のは……天使の能力!?」



「そうだ。お前……なぜ天使だけが能力を使えるのか知っていたか?」

「それは神が……」


「そうかもしれないが、能力の使用条件として、シロの心臓部が必要なんだ。つまり、強いシロに染まっていたフェイトは天使の能力を発動することができたってことだ」

「そんな、アイツは一度も……」


 天邪鬼だったアイツは、あくまで天使の真似事をするのが好きだったのかもしれない。

 それか天使そのものになるよりも、悪魔の身体のまま天使であるミカエルと分かり合えたことが嬉しかったのだろう。

 泣きっ面に蜂というのも、アイツらしい意地悪な能力なのも頷ける。


「というわけで、今はイネインが思う存分使わせてもらっているのさ。しかも俺の能力と相性は抜群だ。俺が起こした不幸を、コイツが増幅してくれる。どうだった、俺たちの愛のある連携の味は」


「くっ……」


「さぁ、どこまで耐えられる? ……おい、どうしたんだイネイン?」

「ふっふふふふふっ!! あはははははは!!」


 急に笑い出したイネイン。

 しかも先ほどまでのおしとやかなイメージが崩れ去るほどの醜悪な顔をしている。

 そして転がっていたミカエルの槍を細い腕で持っていた――


「愛? 愛ねぇ~!! あははは、もう無理」



 ――ザンッ!!


「ぐふっ!?」


 それをミカエルではなく、なんとフェルの身体に突き刺した。






  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る