きっと…
あなたならきっと大丈夫
君ならきっと出来ると思う
きっと、きっと皆うるさい!
私だって出来ない事だってあるし、甘えたい時だってある。それなのに誰も分かってくれない…
私が感情表現が苦手なのは分かってるし、お願いされると断れない事も分かってる。
それでも私の気持ちに誰か気づいてほしい…
どうしてこうなんだろう…
「七瀬ならきっと大丈夫だよね?」
「うちの班に七瀬がいて良かったよ」
学園祭の出し物の準備をする私の班は男二人と女二人の四人なのだが明らかにやる気のない田中くんと齋藤さんはそんな事を言ってさっさと帰ってしまった。
いつもの事なので私は気にしない様にはしてるがやっぱりしんどい物はしんどいのである。
タメ息を吐き、残っている男子、山田君を見るとこちらもやる気の無さそうに見える。
「山田君は帰らないの?」
「なんで?」
「皆、帰っちゃったから…」
そう言った私を見る山田君は首を傾げている
「一人でやりたいの?」
「いや、そんな事ないけど…」
「なら、一緒にやるよ」
山田君があまり人と話してるところを見た事がなかったので私は変な感じがしたが二人で準備をする事にした。
「七瀬さん、すごいね」
私がたこ焼屋さんの看板用に布を縫っていると山田君はそう言ってきた。
「そんな事ないよ…」
さっきからこうやってちょいちょい山田君が話しかけてくるが話が続く事がなかった。
そんなこんなで初日の作業が終わって帰る準備をしていると、
「お疲れ様」
「ひやっ!」
頬に感じた冷たい感覚に私は変な声を出してしまう。
振り向くと山田君が本缶コーヒーを持っていた。
「ごめん、ごめん、ビックリした?」
そう言って笑う山田君にイラッとしてしまう。
「なんなのよ!」
「七瀬さん、堅いからさ」
「どうゆう事よ!」
「七瀬さんいつも頑張りすぎなんだよ、もう少し楽にしなよ、ところでなんでいつもそんなに頑張るの?」
「それは…」
私は山田君の質問に答える事ができなかった。
なんで私はこんなに頑張ってるんだろう…
―――
作業二日目
やっぱり他の二人は「七瀬なら大丈夫」と言ってさっさと帰ってしまった。
本当になんなの?
腹が立ってきた私は山田君にあたってしまう。
「山田君も帰ったら?」
「なんで?」
「なんでって…」
「ほらほら、一人じゃ大変でしょ?」
「まぁ、そうだけど…」
結局、二人で作業する事になった。
―――
三日目
この日は初めて四人で作業する事になったが、飽きてしまった二人はすぐに帰ってしまう。
それには流石に呆れてしまった。
苦笑いする山田君は残ってくれたけどね…
―――
四日目
この日から二人が来ることがなかった
――――
五日目
いよいよ作業が大詰めになり、山田君と二人で頑張って最後の追い込みに入る
―――
六日目
作業最終日となった。
私はこの六日間、山田君と作業をして仲良くなっていた。
「ちょっと、山田君そこ違うから!」
「えっ?こうじゃなかった?」
「もぉ、こうだよ!」
「なるほど」
この時間も終わりと思うと淋しいものがある。
作業が全て終わり、帰りは山田君と帰る事になった。
二人で缶コーヒーを飲みながら帰り道を歩く。
「七瀬さん、今までありがとうね」
「なによ突然」
「楽しかったからさ」
「そっ、なら良かった」
公園に差し掛かると、山田君は「こっちだから」と言って帰って行った。
何だったんだろう…
今日の山田君変だった…
―――
次の日
山田君はいなかった。
朝礼で先生の話で親の転勤で転校になった事を知った。
山田君のいなくなった席を眺めていると涙が溢れそうだった。
それが何故かは分からなかった…
家に帰ると私の心は空っぽだった…
山田君と過ごした六日間は本当に楽しかった。
今まで私は頼られてばかりだったので誰かと何かをするのは初めての経験だった…
自分の机に座り、鞄から教科書を取り出すと紙が落ちてきた。
紙を拾い広げると、山田君からの手紙だった。
七瀬さんへ
お別れも言えず本当にごめん
七瀬さんと一緒に過ごした日々はスゴく楽しかった。
本当にありがとう
俺は七瀬さんが好きです
突然こんな事言われて困ると思うけど、高校はそこにある高校を受験するから 七瀬さんが良かったら待っていてほしい。
きっと七瀬さんのところに帰ってくるからお願いします。
山田圭人
なによ…なんなのよ…
きっとってなによ…
私の一番嫌いな言葉なのに…
でも、このきっとは好き…
このきっとは温かい…
信じてもいいよね?
私は山田君からの手紙を机の引き出しにしまった。
これが好きって感覚なのかな?
私は恋をした事がないからわからないけど、山田君にもう一度会ったら分かると思う。
山田君、待ってるから…
私、待ってるから…
山田にもう一度会える日まで…
きっと… 完
短編物語 part1 黒野 ヒカリ @kokoronodoa
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