不思議なペンダント



 人の役にたつことをしろ!

 人の気持ちを考えろ!


 毎日そんな事を言っていた親父が死んだ…


 家にろくにお金も入れず酒ばかり飲んでお袋に苦労ばかりかけていた。

 お袋は俺が高校を卒業する前に死んでしまった。

 心労がたたってしまったんだろう、本当に親父はどうしようもない。


 クソ野郎だった親父は死ぬ前日に、突然俺の部屋にやってきて緑色の宝石が埋め込まれたペンダントを渡してきた。


 男の俺にこんな物を渡す親父の気が知れないが生まれて初めての親父からのプレゼントに少し嬉しくなった。


 それでも散々俺達を振り回してきた親父を許す気にはなれないけどな。


 机の上に置かれたペンダントを眺め悩む。


 これどうすんだよ…


 お袋はすでにいないし、ペンダントをあげるような女なんていやしない。

 

 売るか…


 俺は身支度を整えて質屋へ向かった。


 マジかよ…600円て…


 余りの安さにすぐに質屋を出て帰路つく。一応、形見だし…


 家に着くと畳に寝っ転がってペンダントを見つめる。


 最後の最後にこんなゴミを残すなんて親父らしわ


 すると、ペンダントが輝き始める…


 眩い光を放つペンダントに驚き、手を離してしまうとコロコロと転がっていき、壁に当ってペンダントは止まった。


 光が段々と弱くなっていくと辺りは真っ白い空間に変わり、目の前に映像が映し出される…



 年の頃は二十代だろうか、親父が赤ん坊を抱えて病院を駆けずり回っている…

 

 何件も違う病院を周り、肩を落とす親父…


 緑色のペンダントを握りしめて喜ぶ親父…


 そして、緑色のペンダントが輝き始める…


 「清登きよともう大丈夫、大丈夫だから…」


 赤ん坊に話しかける親父の声が聞こえた


 清登?清登って…俺?

 あの赤ん坊は俺なのか?


 スクリーンに映し出される映像はどんどんと進んでいき、赤ん坊もどんどん成長していく…


 懐かしいな…

 この時の運動会は初めて親父が見に来てくれたんだっけ

 最初で最後だったけど…


 そんな事を思っていると、親父とお袋が二人で話をしている場面に変わって二人の声が聞こえ始める…


 「清登、元気になって良かった」


 「本当ね…」


 「お前には苦労ばかりかけて、すまない…」


 「いいのよ…」


 俺は親父がお袋に謝っている所を初めて見た

 親父はいつも堂々としていて、高圧的で謝る姿なんて想像すら出来ないような人…


 すると、また場面が切り替わる

 お袋が一人で映り、こちらを見ている


 「清登、ごめんね、お母さん清登の卒業式見れそうにないよ…お父さんが私の分の『善』を払い終わったみたい…清登には本当に苦労ばかりかけたね…ごめんなさいね…お父さんはあんな感じだけど清登の事大切に思ってるから……私達・・がいなくなっても頑張って生きていくんだよ…清登…」


 なんだよこれ!お袋どうゆう事だよ!善ってなんだよ!

 私達・・がいなくなってもってどうゆう意味だよ!


 俺はスクリーンに手を伸ばすが触れる事はできなかった。


 そして、また場面が切り替わる…


 薄暗い部屋、お袋の遺影を見つめ涙を流す親父…


 「すまかった…本当に、すまかった…」


 もう…やめてくれよ…

 俺は心から叫ぶ…


 本当になんなんだよ、こんな親父の姿も見たくなかったし、お袋の最後の言葉も聞きたくなかった。

  今まで俺が抱いていた親父への気持ちは何だった?

 おかしかったのは俺だけか?

 

 色々な感情に混乱しているとまた場面が切り替わった

 今度は親父が一人で映り、こちらを見ている


 「清登、寂しいがこれが最後だ…俺の分の『善』を払い終わった…俺は近いうち死ぬだろう…これが契約だからな…でも、悔いはない、清登を救えたからな…赤ん坊のお前は心臓に病を抱えててな長くは生きられないと言われた、でもこのペンダントをとある人物から譲り受けてお前を救う事ができた。ただ、制約があってな、『善』を払わないといけなかった。人のためにいい事をし続ける…これがなかなか大変で少しでも遅れると全てが水の泡になってしまう。お陰でお前にと母さんには大変な思いをさせてしまった…」


 下を向いて黙る親父は顔をあげ、また話を始める…


 「『善』を払い終わると死んでしまう…このペンダントは大切に持っておきなさい。困った事が起きたらこのペンダントを握りしめて強く願いなさい。きっと未来を変えられるから…

清登…苦労をかけて、そして寂しい思いをさせて本当にすまかった…」


 スクリーンが消え、真っ白い空間から元の畳の部屋に戻る…


 俺の目からは涙が溢れる


 親父、俺の方こそごめん

 何にも知らなかった

 俺のせいで親父に苦労かけてごめん

 クソ野郎って言ってごめん

 クソ野郎は俺だったよ…

 二人に親孝行の一つもできなかった…

 

 本当にごめんなさい…


――― 


 「親父、お袋、行ってきます」


 二人の遺影に手を合わせて俺は仕事に向かった。


 二人の遺影の前には緑色のペンダントが置かれている。




不思議なペンダント 完

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