アイドルに憧れて
はぁ…またダメだった…
鳴らないスマホをずっと見つめる私はタメ息を吐いた。
これで何度目だろう…
小さな事務所だけどスカウトされて喜んだのも束の間、オーディションに落ち続けた私は完全にやる気を失っていた。
そんな私に仕事なんてほとんどない
バイトに勤しむ毎日…
私に才能なんて無いのかな…
口を開けば愚痴しか出てこない
すると、突然スマホが鳴り出して驚いてしまう
諦めていたオーディション合格の電話と思ったけど、画面に表示されたのは社長の名前だった。
「はい、もしもし」
「
「分かりました…」
突然な事でも社長から直々に言われればNOとは言えない
バイト先に電話を入れ、すぐに事務所に向かった。
事務所に着くと応接室に案内される
「美妃さん、座って」
「失礼します」
私が座ると社長はすぐに話し始めた
「美妃さん、オーディションはどうだった?」
はぁ、一番聞かれたくない事を聞かれたよ…
「…ダメでした」
「そっか、ところで美妃さんはマネージャーに興味はないかい?」
それって『才能ないから』て言われてるようなもんだよ…
オーディションに落ち続けた私はもう使えないって事なのかな…
「私って才能ありませんか?」
少し悔しくなった私は社長に直接聞いた。
「そんな事ないよ、まだ芽が出てないだけで、美妃さんはこの事務所で一番努力してると思う」
そんな事を思ってるならマネージャーの話を私にしないでほしい…
「そうですか…でも、マネージャーの話はちょっと…」
「そっか…でも、少しだけでいいから話しだけでも聞いてくれないか?」
「話だけなら…」
「ありがとう」
社長はすごく優しいけど、マネージャーをやるくらいならこの世界の事は諦めようと思う。
話しだけは聞いてやめると伝えよう…
「実は、最近スカウトした子なんだけど何をやらせてもやる気を出してくれないんだよ。光る物は持ってるんだけど、ちょっと見てもらえないかな?」
「はぁ…」
「入ってくれ」
社長がそう言うと応接室のドアが開き女性が入ってきた。
「どうも、
ま、眩しい…
軽く挨拶しただけの片桐真実は、顔はもちろん芸能人特有のオーラをすでに纏っていて輝いていた。
こんな子見せられたら自身無くしちゃうよ…
「どうだい?」
「す、すごいと思います…」
「だよね」
満足そうな表情を浮かべる社長を他所に片桐真実はむすっとした表情で椅子に座った。
それには社長も苦笑いを浮かべた。
『なんなのこの子!』
それが私の第一印象だった。
「こちらは
「ちょ、社長、私やるって言ってないで…」
「大丈夫、大丈夫」
私の話を遮るように大丈夫って言ってきた社長はウインクをした。
全然大丈夫じゃないんですけど…
「この子のマネージャーをお願いしてた人がやめちゃってね、うちって人手が少ないから…一生懸命な美妃さんに頼むのは忍びないけど、古株で色々な人を見てきた美妃さんなら出来ると思う。だから、お願いします」
社長はそう言って立ち上がると頭を下げた。
うっ…そうやってお願いされたら断りずらい…
「わ、分かりました、でも少しだけです、そしたら私、事務所やめますから!」
「どうして?」
「どうしてって、私に才能がないからこんな事お願いするんですよね?」
「さっきも言ったけどまだ芽が出てないだけで君には才能がある」
「ならどうしてオーディションに落ち続けるんですか?」
一度目線を下に落として真剣な表情になった社長は私の目を見つめた。
「まだコツを掴めてないだけだ。美妃さんは自分の良さに自分自身が気がついていない。
それに一生懸命すぎるんだよ。少し肩の力を抜く事も大切だよ。
他の人をよく見て自分自身を見つめ直すのもいいと思う。私はこれはチャンスだと思っているよ」
確かにオーディションでは固くなっていたし、うまく自分を出せていなかった。
それに周りを見る余裕も無くなって負のスパイラルから抜け出せなくなっていた自覚もある。
社長には敵わないなぁ…
「分かりました、でも私も自分の事の片手間でやりますがいいですか?」
「うん、問題ない」
社長は嬉しそうに私に微笑みかけ、目で合図を送る
分かりましたよ…
「あなたのマネージャーをやる事になった渡瀬美妃です。よろしくお願いします」
片桐真実は挨拶をした私に視線を向けると軽く頭を下げ、すぐに爪をいじりだした。
『なんなのこの子!』
第二印象もこれだった。
それから私達は一緒にレッスンを始めた。
ボイトレにダンスとレッスンしていくが真実ちゃんは全くやる気を見せなかった。
「ちょっと、真実ちゃんもっとやる気を出してよ!」
「出してますよ」
「それで?それでやる気出してるって言うの?」
「はい」
あっけらかんと返事をする真実ちゃんにイラッする
あぁ、腹立ってきた…
「あんた周りをバカにしてるの?してるよね!血ヘド吐く思いで頑張ってもムリな人もいるんだよ?
そんなんだからマネージャーがやめちゃうんだよ!」
「そんな…ごめんなさい…私…」
怒りませに言ってしまい真実ちゃんは泣き出してしまった。
「えっと、ごめん、言い過ぎた、泣かなくても…」
「ぷぷっ」
俯く真実ちゃんは突然笑いだした
「はぁ?あんたなんで笑ってるのよ!」
この子、ムリだ…
と思ったのも束の間、顔をあげ、真剣な表情をする真実ちゃんは私を見つめる
「これが私のやりたい事です」
「人をバカにする事?」
「違います、女優です」
「女優ねぇ…」
「はい、女優一本でやって行きたいんです。美妃さん騙されましたよね?」
確かに本当に泣いていると思った。
それでも、よほどの才能がない限り女優一本で生きていけるほど芸能界は甘くはない
「何か演技してみてよ」
「分かりました」
私の無茶ぶりに返事をして演技に入る…
即興で演技をする真実ちゃんはただただ凄かった。
私はどんどん真実ちゃんの演技に引き込まれていった。
「どうでしたか?」
演技を終えた真実ちゃんが私に聞いた
「凄かった…本当に凄かった」
「ありがとうございます」
真実ちゃんはすごく生き生きとしていた。
「真実ちゃん、いけるよ!」
「本当ですか?」
「うん、だから私に演技教えて!」
「私でよければ」
笑顔で答える真実ちゃんに言いたい
その笑顔は反則だよ?
女の私でもドキッとしちゃうから!
「そうそう、真実ちゃんは少し大人の対応を覚えようか」
「大人の対応ですか…」
「うん、そう言えば真実ちゃんの年齢聞いてなかったね。いくつなの?」
「十六です」
「じゅ、じゅ、十六!」
十六でその魅了はあり得ない!
自身無くしちゃうよ…
「どうかしましたか?」
「な、なんでもないよ、とにかく頑張ろうね」
「はい」
そして、真実ちゃんからは演技を教えてもらい、私は大人の対応を教えて一ヶ月が過ぎた…
「美妃さん、私、緊張してます」
「私も…」
オーディションの順番を待つ真実ちゃんと一緒に私も緊張していた。
「503番の方こちらへ」
「はい」
返事をして立ち上がる真実ちゃん
「真実ちゃんなら大丈夫!頑張れ」
真実ちゃんは私を見て頷くと審査室へと入って行った。
真実ちゃん頑張れ
審査室から真実ちゃんが出てくると私は駆け寄った。
「どうだった?」
「うまくできました」
「よかったー」
「ありがとうございます、美妃さんのお蔭です」
「私、何もしてないよ」
「いえ、してます。私、美妃さんがいてくれたから頑張れたんです」
くっ、泣かせる事言ってくれる…
「次は美妃さんの番ですよ」
満面の笑みを浮かべる真実ちゃんに私も気合いが入る。
「よし!次は私の番!次のオーディションで結果を残すから!」
「そのいきですよ」
「結果は分からないけど、とりあえずお疲れ様会やろ」
「はい」
私達はオーディション会場を後にした。
私達の物語はまだ始まったばかりだ
アイドルに憧れて 完
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