テニスが教えてくれたこと

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テニスが教えてくれたこと

 僕は趣味として、週に一回テニスクラブに通っている。

理由は運動不足とストレスの解消だ。

なぜテニスクラブにしたのかというと、中高の部活でテニスをしていたので少しは出来るだろうと思ったためだ。現時点で通い始めて約半年になる。


 僕がテニスクラブで学んだことはたくさんある。

クラブに通い始めて2か月近くが経ったころだ。中高やっていたテニスの経験が全く活かせず、ラリーもままならなかった。毎回の練習がそんな感じだった僕は、心が折れてしまい

週一のテニスに行かなくなってしまった。


 行かなくなって、1か月、また1か月経ったころ、「もう辞めよう」と思った僕は、通っているテニスクラブへ電話し、辞める旨をお伝えした。クラブの規約で3月いっぱいまで月謝が引き落とされるため通うことができるようだ。あと2か月ある。

クラブに電話をしてから数日が経ったころ、ふと給与明細を確認した。

当たり前ではあるが、2か月分のテニスの月謝が口座から引き落とされていた。

それを目の当たりにした俺の内側からは、「悔しい」と「情けない」という2つの感情が沸き起こった。

折角勇気を振り絞って、通い始めたテニスクラブ。

このまま通わないで辞めてしまうのは途中で放り出すことが嫌いな僕の美学に反していた。

丸1日考えた僕は、残り2か月間通って、楽しんで辞めよう。辞める時まで下手くそでもいいじゃないか。

そう思い、僕はテニスを再開した。

 

 テニスのレッスンの日がやってきた。2か月振りテニスのクラブのコートに足を踏み入れる。

「お久しぶりですね!それじゃあ打ちましょうか!」

担当コーチがまるで、実家で待っている親のような口調で僕に声をかけてくれた。

2か月間サボっていた僕のことなんてみんな忘れちゃっているのではないかと思っていた僕を受け入れてもらえたのがとにかく嬉しかった。


 僕はボールを打った。案の定うまく打てなかったが楽しかった。

今思うと、楽しめたのは、「僕」という存在を受け入れてもらえた嬉しさのお陰だったのかもしれない。

練習中、僕と同じレッスンを受けている綺麗なお姉さんが声をかけてくれた

「あれ?久しぶりですよね?」

僕は女性に慣れていなかったため、上手く会話を広げることができなかったが、話しかけてくれてありがとうございます。という思いを伝えたかったので、

できる限りの笑顔と一緒に二言「はい!」と返事をした。

 練習していくと、副コーチからも「久しぶりですね!久しぶりに見ましたよ!」

と声をかけていただいた。少し話すと副コーチは大学4年で就職が決まり、4月から社会に出て働くそうだ。

僕は社会に馴染めていない社会人2年目の「僕」として言った

「就職おめでとうございます!頑張ってくださいね!」本心だった。

その週のテニスが終わった。

 僕は幸福感で満たされていた。それと同時に、「またこのクラブのみんなとテニスがしたいな、早く1週間経たないかな」と思った。

どうやらサボっていたころのネガティブな気持ちは練習でかいた汗と一緒に流れていったようだ。

 上手くボールを打てなくたっていい、楽しむという心が大事なんだ。

僕は、「まったく上手くならない自分にはセンスがないんだ」といったネガティブなイメージでテニスをしていた2か月前を振り返って、テニスを楽しめていなかったなと反省した。

反省の中で、楽しめていない状態で上手くなるなんて絶対にありえないなということに気が付いた。

 周りからは当たり前だと思うかもしれないが、その「当たり前」が分からなかった僕にとっては、凄い進歩だと感じた。


それから1週間が経った。

「テニスを楽しめているし、クラブを辞めるまでは1回も休まずに通おう!」と決心した僕はわくわくした気分でテニスクラブへと足を運んだ。

コートに入り、周りのメンバーを見渡した。いつものメンバーだ。今日も楽しい練習になりそうだな!と思った。

 ふと端に目をやると、とても綺麗な見慣れない若い女性が1人いた。

練習の初めにコーチが若い女性を紹介した。どうやら、本日より僕と同じレッスンに参加するようだ。

みんなで、若い女性に対して「「「よろしくお願いします」」」というと、練習が始まった。


 先週習ったことをしっかり取り入れて球を打った。

先週までは10球中6球は打った球が上に飛んでいってしまっていた「フォアハンドストローク」だったが、打ってみると、10球に3球はまっすぐボールがと飛ぶようになった。僕にとっては大きな一歩だった。気がつくと、「もっと上手くなりたい!」と思うようになっていた。

練習の休憩時間に、話したことがない男性会員に思い切って話しかけてみることにした。

男性は、僕が始めた「たわいもない話」を広げてくれた。話してみて、同郷ということを知った。

その後、ダブルスの練習が始まった。僕はペアになった男性にも話しかけてみた。

その男性はいつも寡黙で少し怖そうであったが、優しい口調で話してくれた。

話してみると優しい人ばかりだったということと、今まで人とコミュニケーションがうまく取れていなかった原因は、

「他人に対して自分の中で殻を作ってしまっていた」からだということに気が付くことができた。


 練習が終わり、いい汗をかいた僕は、クラブを後にした。

クラブの近くにスーパーがある、晩御飯の食材を買おうと思い、僕はふらっとそこに寄ってみた。

 そのスーパーの青果コーナーで、今日からレッスンに参加した綺麗な若い女性がイチゴを買い物かごに入れていた。

仲良くなりたかったが、勇気が足りなかった僕は何もアクションを起こせなかった。


僕は何も買わずにスーパーを後にした。


 クラブからの帰り道、自宅の最寄駅で電車を降り、いつも買い出しに行っているスーパーに入った。

そこで僕は晩御飯の食材とともに、「いちご」を買った。

家に帰って食べた。


とても酸っぱかった。

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