スズの過去 いつかの君へ3

 満月の夜。

 天気は大荒れとなった。

 豪雨が降り、川の水かさは増し、とても探し物をできる状態ではない。


 スズはねぐらから、空を見上げた。


「関係ないことだにゃ。

 どっちにしろ、アイツがマジメに探し物なんてするわけないにゃ。

 早々にあきらめて、とぼとぼとこの町から去る、それだけだにゃ」


 スズはうずくまり、寝支度をした。

 そうしながら、言い聞かせるように言った。


「間違っても、川に行ってるわけがないにゃ。

 こんな雨で、バカ正直にマグロを探してるなんて、そんなこと、あるわけないにゃ」


 スズはちらりと、周りに顔を向けた。

 仲間の猫たちが、そろってスズに目を向けていた。

 スズは無視して、顔をそむけて寝ようとし、それからしばらくして、やけっぱちに立ち上がった。


「ああもう! 見に行けばいいんだろにゃ!?

 確認しないと気になって、ぐっすり眠れもしないにゃ!」


 スズはねぐらを飛び出した。




 豪雨と増水が音を埋める川を、スズは見て回った。

 仮にワラエルが来ていたとして、それを見つけるのすら難儀しそうな状況だった。

 無駄骨であってくれと思いながら、スズは探した。


 そして、見つけてしまった。

 ランドセル。

 名前が書いてある。

 苗宮キウイ。

 川べりに、投げ捨てられたように。


「なんで、なんでアイツのランドセルが、ここにあるにゃ!?

 ここに……来てるのかにゃ!? アイツが!?」


 スズは、川を見た。

 濁流。

 人や猫の姿は、見当たらない。


 スズは走りながら、声を張った。


「ワラエルー!! 苗宮ー!! オマエら、いるのかにゃー!?

 どこにいるにゃー!? どこに……どこで、何やってるにゃ、オマエらー!?」


 何か、光った気がした。

 それは妖力を燃やす光だった。

 スズはそこに走り、見た。

 必死に光をともして合図する、猫魈ワラエルと。

 それを抱きかかえる、苗宮の少年は。

 橋脚に引っかかり、頭から血を流して、ぐったりしていた。


 豪雨にかき消えたのは、自分自身の悲鳴だとすら、スズは気づかなかった。

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