最終話 ハッピーバースデー、そしてありがとう

 ネクタイをゆるめながら、苗宮キウイは帰路についた。

 見上げれば満月。自宅に着き、窓からは明かり。

 ひとつ、息を整え。キウイは鍵を回し、ドアを開けた。


「「「「誕生日おめでとーう、キウイー!!」」」」


 クラッカーの音と紙ひも。キウイは笑顔を返す。

 バステト女神ジャミーラ。五徳猫アブリマル。キャスパリーグのハンサミィ。そして猫又スズ。いつもの面々だ。


「キウイ君はもう二十六歳? 立派になったね」


「アニキは昔から立派だぜ! どれだけ猫と世界の危機を救ったと思ってんだ!」


「俺わりと不本意な巻き込まれ方した結果だけどね……」


 みんなで笑う。スズがホールケーキを持ってきた。


「スズ、座ってなくて大丈夫?」


「これくらい平気だにゃ。この子もパパのお祝いしたくて、動きまくってるにゃ」


 ケーキを置き、スズはお腹をなでた。身重のお腹。左手には指輪。キウイとセットの。


「わたくしが運ぶって言ったのに、スズったら聞かないのよぉ、キウイ君。よっぽどアツアツなのねぇ」


「うるさいにゃジャミーラ」


「ジャミーラとアブリマルは、結婚式挙げないの?」


「オレサマたちはなぁ、どうすっかなぁ」


「やるとして、どこの様式で挙げるかしらねぇ。エジプト式か日本式か、ウェディングドレスか」


「ジャミはどれでも似合いそうだぜ」


「あら、ありがとぉアブちゃん。うふふ」


「オマエらもよっぽどアツアツだにゃ」


「みんな幸せそうだねえ。ボクも負けてられないよ」


「そういうハンサミィだって、いい相手いるんじゃないの?」


「さて、どうだろうねえ」


 談笑。談笑。

 そしてインターホンが鳴った。


「お、他のヤツらも来たかにゃ。誕生日会に声かけたからにゃ」


「俺開けるよ」


 キウイはドアを開けた。

 すると。


「にゃ〜」


「「にゃ〜」」


「「「にゃ〜」」」


「「「「にゃ〜」」」」


「「「「「にゃ〜」」」」」


「いっぱい来たー!?」


 ねこねこ大津波! キウイはあっという間にもふもふの波に押し流された。

 その向こうから、次々に声がかかった。


「ハッピーバースデーキウイたーん! パパがお祝いに来たよーん!」


「ケーキはあるでしょうから、母は和菓子を持ってきました。みんなで食べましょう」


「獣医のお仕事、なんとかキリがつきましたよー。飾りつけを作ったので、お部屋を華やかにして盛り上がりましょう!」


「今日はマイナスは封印、祝福のプラスで彩る所存」


「ケヒャヒャヒャ……バースデーソングの指揮はオレがやるぜェ……」


「ははっ! テーマパークにも負けないくらい、盛り上がろうねぇ!」


「職場の人とプライベートで会うの勘弁して欲しいんすけどー、まあいいっすけどねー」


「生誕の奇跡をただ、フゥー祝います」


「小生らはいつなんどきでも、飼い主の元へはせ参じますとも」


「ケンカ祭りしようぜケンカ祭り! アタシは暴れたいんだよ!」


「わたし、笛吹くよ! いっぱい吹いて見てもらって、また上達したんだから!」


「お忍びでオイラもウルタール抜け出してきたよ! 国歌斉唱アイドルソングでお祝いするよ!」


「フー……個人宅を訪問なんて、本来国王アイドルがやるべきことじゃないさね……」


「にしし! 楽しければええでおまんがな!」


「ミーもお祝いに来たのサ! ようやく軌道に乗ったクトゥルフ印のたこ焼き、たんと召し上がるがいいサ!」


 たくさんの人や猫にもみくちゃにされ、キウイは目を回した。

 そうしながら、笑い、声を上げた。


「ありがとう! みんな、本当にありがとう!」


 見上げれば満月。そこから視線をずらせば、屹立する三角形。

 ねこみみ地球に生えっぱなしのねこみみは、ホッピーら異種族の住まうコロニーとして機能していた。

 今や世界は、猫を中心として回る。その猫の中心として、キウイがいる。そのキウイの周りには、笑顔と感謝が飛びかう。

 今、改めて言おう。ハッピーバースデー。そして、ありがとう。本当に、ありがとう。


(エピローグに続く)

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