第72話 王の乱心!金華猫&チェシャ猫!1

 王宮にて。

 新王、漆黒のねこみみ絶世美少年クロは、ぶるぶるとふるえていた。


「いやいやいや、絶対おかしいって……!

 オイラただのしがないケット・シーだよ? 人語をしゃべるだけの猫の妖精だよ? 家柄も育ちも全然よくないよ?

 なんでたまたま前王と仲良かっただけでオイラが新しい王様なの?」


 その横、妖艶なるねこみみ妙齢女性ユエニィエはささやいた。


「フー……前王の遺言さね……

 アタイらはそれに従って、クロ……あんたを王に迎え入れる……」


 逆の隣、にたにた笑いのねこみみ中年男性グリグリも合いの手を打つ。


「にしし! そうでっせ! クロはんは自信持ったらええんでおまんがな!

 政治のことはわてら二人がサポートしますさかいに! どーんと構えておくんなまし!」


「うう……」


 クロは上方に目を向けた。

 前王が描いた、クロのスケッチが飾られていた。


 前王。美しく気高かった。

 身寄りのないクロを拾い、友達だと言ってくれた。

 絵が好きで、クロと出会ってからは一心不乱にクロの絵を描いた。

 その前王は病気で死に、王位をクロにゆずる遺言を遺した。


「なんで、オイラなんだよ……もっと他にいるだろうに……!

 でも言ってた、自分の次はオイラが王を継いでくれって、約束だって……!

 約束、オイラ守らなきゃ、いけない、けど……!

 うっ、おぼろろろろろ」


「吐いたー!?」


 緊張による嘔吐を、ユエニィエらは片づけた。


「まあ、落ち着いてから来てくれたらええんでな!

 わてら即位式の準備があるさかい、先に行くで!

 外の世界からお客さんも来てて、大慌てなんや!」


 グリグリとユエニィエは背を向け、歩き出した。


「フー……それにしてもグリグリ……なんでこのタイミングで客を招いたのさ……?

 そりゃ猫又スズたちは神をもしりぞけた猫の英雄……だけどウルタールには縁はない……」


「ええ? あれユエニィエはんが招いたんと違うの? わてはてっきり……」


 足音が去り、クロは一人、悩んだ。


「もし、血筋も能力もないオイラを、民衆が受け入れなかったら……

 前王との約束を、果たせない……?

 そんなのダメだ! せめて、せめてオイラにすごい力があれば……!」


 クロは頭をかかえ、うずくまった。

 そのとき、見つけた。使用人が落としたのか、王宮内のカギ。マジックアイテムを保管する部屋の。

 クロの頭の中で、そのアイテムと、来訪者の情報が結びついた。


「猫と敵対した神にも打ち勝った、最強のねこみみ人間、スズ……!

 もしその力が、オイラにあれば……!」


 クロの目が、追い詰められたネズミのようにするどく光った。

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