第68話 そして、祭りは終わる。1

 祭りが終わり、人々は三々五々と帰っていった。


「ウッキー、名残惜しいけど、ウチは帰るじゃん。またそのうち遊ぶじゃん!」


「今回はぞうみみ人間としてお邪魔したけど、今度は人間みみぞうとして遊びに来てくれてもいいねえ!

 ねこみみぞうやいぬみみぞうも歓迎するよお!」


 そして、踊り猫シャラヒメは、アブリマルたちに向き直った。


「わたし、旅を続けてみるよ。

 まだ人前で踊るの緊張するけど、もっと旅を続けて、もっともっと堂々と踊れるようになってみせるよ。

 静岡の地元にも帰って、お祭りにも参加してみたいな」


 シャラヒメはそれから、笑った。


「お幸せにね、ジャミーラさん」


「なんでわたくしなのよぉ」


 そうした面々を、徳川いぬみみ綱吉は満足そうにながめ、それから仲間に声をかけた。


「ワン・チャンよ」


「イエスボス、猫は最高です」


 毛玉とゲロにまみれたワン・チャンが、隣でびしりと直立した。


「余は満足している。この時代によみがえり、こんなにも満喫した。

 ありがとう、ワン・チャン」


「はっ、……いえ」


 ワン・チャンは目を伏せた。


「小生はただ、犬のために。いえ。自分のために、綱吉氏を利用しようとしただけでございます」


 いぬみみ綱吉は、ほほ笑んだ。


「よいではないか。自己満足の行動で、他の者まで幸せになる。

 こんなにも恵まれたことはないぞ」


「……は。ありがたきお言葉……」


 ワン・チャンは、静かに涙を流した。


「さて、ワン・チャンよ。余を彼岸へと帰してはくれまいか。

 すでに死者である余がこの世にとどまり続けるのは、いらぬ混乱と混沌を巻き起こすであろう」


「横からツッコむ苗宮キウイですが、手遅れなほど混沌の極みです」


 ワン・チャンは、気まずそうに目をそらした。


「それが……小生のバリツは死者をよみがえらせるしかできないのです。彼岸へ帰すすべは……」


「そうか、困ったな。腹切りでもするか」


「——オレサマが、思い出すときが来たみてぇだ」


「アブリマル?」


 キウイや綱吉たちは、そちらを見た。

 手に小瓶を持ち、神妙な顔をして、五徳猫アブリマルは向き合っていた。


「シャラヒメも、ジャミーラさんも、誰もかも、胸を張ってこの祭りを楽しんでた。

 オレサマも、昔に向き合わなきゃ、カッコ悪いよなァ」


 キウイは見た。手の小瓶……七味トウガラシ。

 アブリマルは、七味を口の中にぶちまけた。


「か、か、か、辛ぇー!!」


 アブリマルは発火。

 そして、変ぼうを始めた。


 母が、解説した。


「五徳猫の由来は、徒然草に書かれた逸話にあるとされます。

『七徳の舞』という舞曲のうち、ふたつの徳を忘れてしまった人物が、『五徳の冠者』とあだ名されたと。

 ゆえに、五徳を冠することが、忘却の印となった。

 なれば、七徳をそろえ直せば。つまり七味トウガラシを摂取することで、記憶を取り戻すのですね」


「オーケー、完璧に理解した、この話にツッコミどころはない。俺はツッコまない、アーユーオーケー?」


「誰に言ってるにゃキウイ」


 アブリマルは、地獄のような炎に包まれた。

 リーゼントが崩れ、亡者のようなざんばら髪になった。

 頭頂の五徳がはずれた。

 それは巨大化し、アブリマルの背後で回転した。

 車輪だった。


 母は、その名を告げた。


火車かしゃ。墓場から死者を連れ去る猫の妖怪であり、地獄へと先導する獄卒とも混同される。

 それが、アブリマルさんの正体なのですね」

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