第67話 騒げ、騒げ。猫も犬も人間も、みんな、みんな!5

 音楽のボルテージは一段と上がり、中央特大ステージ!


 犬たちが、一糸乱れぬ統率でマスゲーム。

 その間を、猫たちが勝手気ままに走り抜ける。

 犬はよけ、隊列を直す、その一連の動きすら組み込み、コラグラフ版画のようにひとつのダンスとして成立する。

 それを成り立たせるのは、ねこじゃらしマスターエノコローのウィーン仕込みねこじゃらし指揮技法だ。


 クー・シーのワン・チャンは、涙を流した。


「なんと見事な犬・猫・人間の三位一体……!

 い、いや、これは犬と人間がすごいのであって、猫は何もすごくないですぞ……!

 小生は、小生はこの程度で猫を認めたりなど……!」


「素直になるにゃ」


 猫又スズが、肩に飛び乗った。


「猫のこと認めたら、楽になるにゃよ。

 なんならスズが手伝ってやるにゃ?

 神様だって猫のとりこになる、とっておきの技があるにゃ」


「は? いやいや結構、そんな、小生が猫に屈するわけには、ちょっ小生の上で、口を開けて、何をする気、ぎゃああああ〜!?」


 祭りの全景を、徳川綱吉はながめていた。

 屋台でつけみみを買い、今は徳川いぬみみ綱吉だ。


「楽しいな、これは」


 いぬみみ綱吉は、笑っていた。


「今の世は。そうか。

 種族も身分も関係なく、こんなにも楽しい時代なのだな」


「あのすみません、ひたってるとこ悪いんですけど、ここだいぶ特異点です」


 ツッコんだキウイに、いぬみみ綱吉は笑いかけた。

 それから、歩き出した。


「さて、余も踊るか」


 音楽は今やサンバのリズム!

 いぬみみ綱吉は人波をかき分け、腰をスイングし、人々とハイタッチして、ステージ上へ。

 喝采、歓声。いぬみみ綱吉は陽気に踊り、高らかに声を張った。オーレ!


 そして、転調。


 リズムは一転して、和の調べ。

 さっとステージのバックダンサーが入れ替わり、和装の者へ。

 うさみみロボの月光のもと。いぬみみ綱吉は凛と背を伸ばし、声を張り、舞った。


 それは、能だった。


 母が、解説した。


「徳川綱吉は生類憐れみの令が有名ですが、大の能好きでもありました。

 みずから能を舞い、側近にも舞わせ、能狂とあだ名されるほどだったといいます。

 こんな、狂言のような騒動だからこそ。徳川綱吉は、輝けるのかもしれませんね」


 人が、犬が、猫が、けもみみ人間が、見上げる中。徳川いぬみみ綱吉は、舞い続けた。

 高らかに。高らかに。

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