第63話 騒げ、騒げ。猫も犬も人間も、みんな、みんな!1

 満月、山奥、風雲いぬいぬ綱吉城。

 クー・シーのワン・チャンはそわそわしていた。


「いよいよバトル当日ですな。犬たちのすばらしき演目で、猫たちがぎゃふんと言うのを見るのが、今から楽しみでございます。

 もうそろそろねこみみ人間一行も来るころでしょう、会場の確認がてら出迎えにでもぎゃふん!?」


 外に出たワン・チャンは驚愕した。

 ここにあるべきは、人里離れ、静かでおごそかなる神聖なステージであった。

 ところがどうだ、眼前にはにはごったがえす人、人、人、人! さらに電飾がきらびやか、はては屋台まで出てどんちゃん騒ぎ。こんなもの手配した覚えはない!


 苗宮キウイが進み出て、ワン・チャンに声をかけた。


「悪いね、勝手だけど観客たくさん入れさせてもらったよ。

 犬と猫のペットとしての優劣をつけるなら、人間がいなきゃ話にならないでしょ?」


「業者の手配は母がしました」


「何やらかしてくれやがりあそばせますか!? 犬と猫の真剣勝負に、こんな雑多な人を集めるなど!?」


「ちなみに、人だけじゃないんよねーコレ」


 キウイの横に並び、世界樹の化身カイジュがにっかと笑った。

 ワン・チャンは見渡した。人並みにまぎれる、ねこみみ、いぬみみ……否。ねずみみ、うさみみ、ぞうみみ、たぬみみ!? 様々なけもみみ人間が勢ぞろい!


「親父に頼んで、神様経由で集めてもらったんだ。ペットは猫と犬だけじゃないんだから、この際みんなでしっちゃかめっちゃかしようと思って」


「キウイ少年、ムチャクチャですぞ!? やってることが自由気まますぎますぞ!?」


「まあ、そうなんだけどさ。俺ってほら、今は猫のリーダーなんでしょ? だからさ」


 キウイはいたずらっぽく笑い、言ってのけた。


「知らなかった? 猫ってわがままで、自分勝手なんだよ」


 口をあんぐり開けたワン・チャンの横に、徳川綱吉が並んだ。


「これだけの祭りの準備、気づかれずに行うのは困難であろうな。

 それを成し遂げたのは、こちらの陣営に協力者がいたということか」


 綱吉とワン・チャンは、後ろを見た。

 ねこじゃらしマスター・エノコローが、ふんぞり返っていた。


「まさかエノコロー氏、あなた猫に内通したのでございますか!? いぬみみはないとはいえ犬の同胞として、ケルベロスの末裔としてそれでいいと!?」


「ケヒャヒャヒャ、なァ、イギリスのワンちゃんよォ……知ってるかァ? ここにいる徳川綱吉氏の政策ゥ……」


 エノコローは綱吉の肩に寄りかかった。


「悪名高いと言われる『生類憐れみの令』だがァ、ただお犬様を保護するだけじゃねェぜェ……

 動物愛護、傷病人の保護、そして捨て子の保護……そういうのを民草に浸透させてェ、今の世の中につながっているんだァ……」


「捨て子……まさか!?」


 エノコローは口角を吊り上げた。


「オレは元孤児だァ。両親とは、旋風つむじかぜの家とは、血のつながりはないのさァ」


 ワン・チャンはがくぜんとした。

 エノコローはねこじゃらしを振り上げ、声高く宣言した!


「オレは!! ただの!! 人間だァ!!」


 舞い上がる風! それに合わせて猫又スズは毛玉を放流。毛玉は破裂してシャボンをまき散らし、月明かりと電飾を反射して空に七色の光を振りまいた!


 キウイは特設ステージのひとつに駆け上がり、マイクを取り、そこにいるあまねくすべてに呼びかけた。


「みんな、パーティしよう! 種族なんて関係なしに、楽しんだもん勝ちだ!

 何しろ俺はマタタビ人間だ! ばあちゃんがマタタビで、父ちゃんが世界樹ユグドラシルで、ご先祖が犬神ってだけの、ただの、人間だ!!」


「「「いやそれただの人間じゃなくない!?」」」


 オーディエンスのツッコミ! 笑う!

 音楽が鳴り始め、お祭りが始まった!

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