第58話 よみがえる犬公方!2

 徳川綱吉は淡々と、威厳よく述べた。


「準備期間は、半月もあればよかろう。

 時は次の満月の夜。場所はこの人里離れた秘密の山中。

 犬ないしいぬみみ人間、そして猫ないしねこみみ人間でダンスバトルを行い、よりエモーショナルなパフォーマンスで相手を圧倒した方の勝ちとする。

 余は犬の一員として、苗宮キウイは猫の一員として、パフォーマンスを行うことを認める。

 このような内容で、異論はなかろうか」


「どこからツッコんでどこまでツッコミ抜けるべきか分からないので、もうそれでいいですハイ」


「息子よ、安易な思考放棄は……」


「この状況で冷静に考えられるほど俺の正気度は振り切れてないんだよ母ちゃん!?」


 ワン・チャンが口をはさんだ。


「そして、ねこじゃらしマスター・エノコロー氏は犬の陣営に。

 理由はバスで説明した通りでございます」


 全員の視線がエノコローに向いた。

 エノコローはニタリと口角を上げた。


「あァ……オレの家、旋風つむじかぜ家はァ……地獄の番犬ケルベロスの末裔……そういう話だったよなァ……ケヒャヒャヒャ」


「息子よ! ケルベロスとはギリシャ神話に登場する地獄の番犬であり、三つの頭を持つとされます! ちなみに『つむじかぜ』と読む漢字として、犬を三つ並べ『猋』と書くものがあります!」


「あっそういうつながり?」


 イカ人間獣医セピアは、おどおどした。


「え、エノコローさんが犬の方に行っちゃうなんて……実力者ですし、それに猫ちゃん大好きじゃないですかー……」


「あァ……心配すんなァ」


 エノコローはセピアの肩に手を置き、それから何事か耳打ちした。セピアが目を見開くのが、他の面々にも見えた。


「んじゃァ、そういうわけで猫どもォ、キウイィ……オレはあっち側に行くぜェ。

 せいぜい楽しくバトルしようやァ……ううー、わんわんっ、ッてなァ……ケヒャヒャヒャ」


 エノコローはワン・チャンの隣に立った。

 ワン・チャンはキウイたちに告げた。


「帰りもバスで送ります。

 種族の威信をかけて、正々堂々と戦いましょう」

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