第57話 よみがえる犬公方!1

「いや、いやいやいや、いやあ? いやいやいやいや!? いやいや!!」


「どうしたにゃキウイ、言語中枢がバグってるにゃ。イヤイヤ期かにゃ?」


「これがバグらずいられるとでも!? 徳川綱吉って、えー!?」


「息子よ! 徳川綱吉は五代将軍であり、有名な『生類憐れみの令』を発令しました!

 とりわけ犬の扱いを大事にしたと伝えられ、犬公方のあだ名がつけられています!」


「いやそこは知ってるよ義務教育受けたもん!? 問題はなんでその綱吉が今ここにいるかってことで!!」


 ワン・チャンが胸を張った。


「小生の秘術にございます。

 イギリス出身として、秘技『バリツ』を習得していますので、滝壺にその魔力をそそぎ、彼岸の彼方から綱吉氏を呼び寄せたのです」


「バリツ!?」


「息子よ! バリツとは、イギリスの名作探偵小説『シャーロック・ホームズ』において、ホームズが用いたとされる秘められた特技!

 宿敵モリアーティ教授とともに滝に落ちて死んだと思われたホームズですが、バリツを習得していたため生存したとされます!」


「あれ格闘技みたいな扱いだったよね!? そんな死んだ人間をよみがえらせる黒魔術みたいな技じゃなかったと思うんだけど!?」


 うろたえるキウイに、徳川綱吉は呼びかけた。


「苗宮キウイ。その混乱も致し方ない。

 余はすでに死した身、もはや徳川の世ですらないと聞く。

 なれば今の余は、徳川五代将軍ではなく、ただの一人の犬公方でしかなかろう。

 余は犬の将軍、そのほうは猫の将軍。対等の立場で、接してもらいたい」


「あっえっと、はい、あの、身に余る恐縮です?」


「さて、早速であるが本題に入ろう。

 このたび、犬と猫のどちらがよりすぐれた種であるか、競うこととなった」


「はい」


「しかし余は、そのようなもめごとで犬猫が傷つけあうのは不本意である」


「ああ、そのへんは史実の綱吉公のイメージ通りだ……」


「ゆえに、この勝負、ダンスバトルで決着をつけることを提案する」


「イメージ粉砕大崩壊ッ!!」

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