第52話 家族でだんらん
「いやー激しい戦いの後はメシがうまい! 家族だんらんというのはいいものだなーマイハニー! マイサン!」
「なんで親父が家にいるのさ……」
夜。
苗宮家は騒がしかった。
「パパが家にいちゃいかんのかねキウイたん! 今までほっといた分、たっぷりパパに甘えていいぞ! ほれ胸に飛び込んでこい! ほれ! ほれほれ!」
「今さら父親ヅラするなよクソ親父」
「ひどいッ!! キウイたん言葉遣い悪ッ!! ワシこんな悪い子に育てた覚えないわよッ!!」
「そもそも育ててねーだろ」
キウイはそれから、ため息をついた。
「ま、もういいよ。なんとかなったし、猫にピンチがなくなったんなら、いがみ合う必要もないや」
「キウイは心が広いにゃ。猫だったら七代たたるくらいうらみが残るにゃ。おかげでスズたちも好き放題やらせてもらってるにゃ」
「好き放題やってる自覚があるんなら、ちょっとは自重できないかなー?」
ねこみみ人間たちは笑った。
カイジュも笑い、それからしみじみと語った。
「本当に、なんとかしよったな。ワシの予想をはるかに超えとった。すごいヤツだよ、おまえさんは」
「当然です、母が一人で育ててきたんです。なんの苦労もないと思わないでください」
お茶のおかわりをつぎながら、母が口をはさんだ。
「えーでもワシ生活費送ったじゃーん? 金の苦労はさせんかったじゃろー?」
「せめて現金で送ってほしかったですね。いちいちジャムを換金するのは面倒でした」
「俺んち世界樹ジャムで生計立ててたの?」
カイジュは茶を飲み、ほっこりと言った。
「しかし本当、家族とはいいものじゃのう。息子も立派に成長したし、スズたんもいい子だ。これはダアトも楽しみだわ」
「ダアト?」
首をかしげるキウイに、母が解説した。
「セフィロトの樹は十個の玉で構成されますが、隠された十一個目の玉があるとされます。それがダアトです」
「? それが俺たちと関係あるの?」
「それはほれ、あれよ。おまえさんたち、二人の命でセフィロトの樹を形づくったじゃろ。つまり二人の命が交わって、そこに新しいタマができてだな」
カイジュは何やらジェスチャーした。
キウイは顔をしかめた。
「それ、シモネタだね? やめてくれないかな食卓で」
「何がシモネタか! 生命の神秘だぞ! 子を持つ親が孫の顔を期待して何が悪い!」
スズはしばらく、話の意味が分からなかった。
やがて思い至り、ボッと蒸気を噴いて赤面した。
「な、な、な、な、何を言い出すにゃオマエ!?」
カイジュは両手で親指を立てた。
「ふつつかな息子だが、よろしく頼む。パパが許可するわよん」
「今まで顔も見せなかったクソ親父が何勝手に許可出してんだよ!?」
けんけんごうごうの親子の横で、スズは真っ赤になって目をぐるぐるさせていた。
ねこみみ人間ズがはやし立てた。
「ちょっとスズぅ〜よかったじゃなぁい? お父様からのお許しが出たわよぉ〜?」
「こりゃもう秒読みっすかね〜楽しみっすね〜?」
「式にはぜひ呼んでくれよ? イケメンオーラを抑えて主役より目立たないようにするからね」
「お、オマエら好き勝手言うなにゃ!? そもそもこういうのは本人の気持ちがあって……」
あっちもこっちも、大騒ぎだった。
キウイもカイジュにまくし立てながら、ふとしゃべりやめ、見渡した。
両親。ねこみみ人間。猫たち。
みんな騒がしく、そして、楽しそうだった。
キウイはふと、つぶやいた。
「まあ、悪くないかな」
ぴたり。
全員の音が止まり、視線がキウイに集まった。
数秒の沈黙。
そして、ねこみみ人間たちが飛びついた。
「ちょっとちょっとダーリンそれ何に対して!? 何が悪くないのかしら!? きゃー!!」
「オイオイオイオイマジで本人同士オッケーなのか!? オレサマ赤飯炊いちゃうぜ超炊いちゃうぜ!?」
「式場の手配いるのかな!? 礼服も準備しないとだしすごく忙しくなるね!?」
「な、な、な、な、な、な」
スズは蒸気を噴きまくり、真っ赤になって叫んだ。
「キウイオマエ、何を言い出すにゃー!?」
「あーあー、聞こえなーい俺なーんも聞こえなーい。母ちゃん俺先に寝るよ。疲れちゃったし」
「おいキウイ逃げるなにゃ!? どういうことか説明してくにゃこの状況スズだけに押しつける気かにゃ!?」
大騒ぎを尻目に、キウイは自分の部屋に逃げ帰った。
後ろ手に戸を閉め、音を追い出し、息をついた。それから、ぽつりとつぶやいた。
「そりゃ、悪くないさ。そう思えるくらい、一緒にいるんだもん」
ドアを閉めても、騒ぐ声はとどめきれない。
苗宮家は今日も、明日も、大騒動だ。
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