第28話 動物病院パニック!4
ドアが強く叩かれた。強引にぶち破られ、キウイが部屋に突入した。
「スズ!! みんな!! ……これは!?」
キウイが見たのは、ぐったりとし、触手に絡め取られたスズたち。
そして触手の主、獣医のお姉さんが、まずアブリマルを選んでほっぺすりすりしたりお耳くにくにしたりする様子だった。
「うふふふーよーしよしよしやっぱり猫ちゃんはかわいいでちゅねーなでなですりすりクンカクンカデュフフフ」
「ち、力が……入らねえ……」
そしてお姉さんは、キウイに向き直った。
「自己紹介させていただきますねー。私の名前は掬戸瀬陽亜(すくいどセピア)。
獣医であり猫ちゃんが大好きでしたが、あるとき大好物のイカを食べすぎた結果、イカの能力を持ったイカ人間になってしまいましたー」
「イ、イカ人間!? ……食べすぎで!?」
「一日に千杯ほど」
「その時点で人間離れ!!」
イカ人間獣医セピアは、物憂げにほほ笑んで続けた。
「猫がイカを食べると腰を抜かすって、聞いたことありませんか? 強大なイカパワーを身につけてしまった結果、普通の猫ちゃんは触るだけで腰砕けになってしまい、まともに触れ合うことも叶いません。
なので普通じゃない猫のスズちゃんたちと触れ合うことにしたわけですねー」
スズが問いかけた。
「オマエ、じゃあまさか、スズたちに打った注射は……!」
「あ、それは正規の予防接種ですよー」
「ズコー」
「あのドリルも正規品なのか……」
気を取り直し、セピアは続けた。
「そういうわけで、スズちゃんたちは私がいただきます。苗宮キウイさんはお引き取りくださいねー」
「ちょ、ちょっと待って!? そんな一方的な!!」
「カムカム、お願いねー」
「マスターの願いとあらば」
キウイの前に、招き猫カムカムが立ちはだかった。
カムカムはテーブルをふたつぶん投げてきた。
「危なっ!? でも狙いが外れた、俺の両横をすり抜けてったよ、ラッキー……はっ!?」
「これにてプラマイゼロ」
「へぶゥッ!?」
テーブルとテーブルの間に、ちぎれた触手が絡まっていた。キウイはパチンコ玉のようにはじかれ、部屋を抜け、動物病院の外まですっ飛ばされた。
「ぐはっ……! ちょっと、ウソでしょ!?」
すり傷だらけの体を起こし、キウイは動物病院を見た。扉にセピアが立ち、虚無的な笑顔で見下ろしていた。
「さようなら、マタタビ人間のキウイさん。もう会うこともないでしょう」
キウイは駆け出した。間に合わず、扉は閉められた。休診中の札が、むなしく揺れた。
キウイは扉を叩いた。音だけが響いた。
「そんな、冗談だろ……! スズ! ジャミーラ! アブリマル! ハンサミィ! そんな! そんなの、俺は……! う、うあああーー!!」
夕暮れの空。視界の端。アスファルトの割れ目。
ぽつんと揺れるのは、ねこじゃらしだった。
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