第27話 動物病院パニック!3

 スズたち四匹は、奥まった部屋に入れられた。


「ひどい目に遭ったにゃ。ここの獣医は鬼だにゃ」


「まあアネゴ、打たれたもんは仕方ねえっすよ。これで当面は注射なんて打つ機会ないでしょうし」


「なんかいろいろ置いてあるわぁ、太いコードみたいなのが足の踏み場もないくらい走ってるし、このマットは……『これで肉球の泥を落としてください』」


「確かに暴れ回って泥もついてるね、ボクのイケメニティを損ねないためにキレイにさせていただこう、ふきふき」


「またあんたは警戒せずに突っ込むわねぇ……あっちは『これで毛づくろいをしてください』」


「いいブラシだにゃ。毛玉ケアフードのせいで消耗した毛玉を補充するにゃ、くしくし、もぐもぐ」


「毛玉予防のブラッシングで毛玉作ってちゃブラシが泣くわよぉ……というかあんた、擬人化した体のどこで毛玉を補充するのよ」


「そっちにもなんかあるぜ、『クリームをすり込んでください』」


「あら、この香りは米ぬかかしらぁ? お肌がすべすべになりそうねぇ、ぬりぬり」


「オマエも無警戒に使ってるにゃ」


「でもおかしいね、こういうケアをセルフでやらせるなんて。ずいぶんと注文の多い動物病院だ」


「まるであのお話だにゃ、『注文の多い料理店』」


「あれって確かぁ、客のつもりでレストランに入った人間が、山猫に食べられそうになるお話だったわよねぇ」


「ということは、ボクたちこれから食べられてしまうのかな?」


「そんなまさかだにゃー」


「ハハハハッ」


 ……沈黙。誰ともなく、うすら寒さを感じた。


 バタンと、何かが倒れる音がした。

 スズとジャミーラとハンサミィはびくりとした。目を向けると、アブリマルが転んでいた。


「ア、アブリマル、おどかすなだにゃ。コードに足を取られたかにゃ?」


 スズはアブリマルの顔をのぞき込んだ。そのひたいには、脂汗が浮かんでいた。


「オ、オレサマは、足を取られた……ただそれだけだったのに、た、立てねえ!? 腰が抜けたみてえに!!」


 スズは見た。床に走るコードのような物、そこに並ぶのは、吸盤……これは、イカの触手!?


 触手が一斉に動き出した。スズたちは対応しようとした。できなかった。スズも、ジャミーラも、ハンサミィも、腰が抜けたように倒れ伏した。


「……あらあらー、イカの毒が回ってしまいましたかー。強力な魔力を持ったねこみみ人間でも、やっぱりダメなんですねー」


 力の入らない首を強いて持ち上げ、スズは見た。

 部屋中の触手、そのすべてが集まる中心、触手の持ち主は、獣医のお姉さんだった。

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