第17話 驚異のねこじゃらしマスター!3

「悪者とか関係なく気持ち悪いにゃ! 毛玉を当てられないなら、組みついてぶん殴るにゃ! 食らえー猫パンチにゃ!」


「近づいてくれるかァ! うれしいねェ……! ならァ!」


 瞬間、エノコローの体がゆらぎ、飛びついたスズの横をそよ風のように通り抜けた。交差の瞬間、何本ものねこじゃらしでスズの体をなでつけながら。

 そしてスズは。


「ぶふぅッ!?」


「鼻水とか涙とかいろいろ噴いたー!?」


「あれこそねこじゃらしマスターたるエノコローの奥義! ねこじゃらしで猫が気持ちいいポイントを的確かつ瞬間的になでることによって、その快感を爆発させる!

 息子よ、あなたがエッチな本を読んで鼻血を噴き出すのと同じ理論です!」


「そういう理屈なの!? 俺そんな古典的な鼻血の出し方しないよ!? そもそも息子が当然エロ本読んでるって前提でしゃべらないで!?」


「お、恐ろしい技だにゃ……!

 のど、背中、耳、尻尾のつけ根、肉球!

 猫としてのウィークポイントをまとめてなでられたにゃ!」


「擬人化してるスズに肉球あるの?」


「ケヒャヒャヒャ! おとなしく身をゆだねてもいいんだぜェ……!?」


「くっ! まだにゃ! こうなったら絶対によけられない攻撃をするにゃ! おぼろろろー!」


「めっちゃ毛玉吐いた! えっえっ山盛りなんだけどスズの体積より多くない!? どこにそんな入ってたの!?」


「息子よ! スズさんは猫又! 自分の体積より多い毛玉を収納することなどわけないでしょう!」


「そ、そうなの!? そうかも……そうなのかなー!?」


「物量で押しつぶしてやるにゃ! 食らえーにゃ!」


 道幅いっぱいに広がる毛玉の津波! 回避のスペースなどなくエノコローに押し迫る!


「甘いぜェ!」


 その瞬間、烈風! すべての毛玉が吹き飛ばされた!


「にゃにゃーっ!?」


「この風は!? エノコローが腕を振ったら吹いたように見えたけど!?」


「息子よ! あれこそ風とねこじゃらしの親和融合!

 ただゆらゆらと揺れるだけに見えるねこじゃらしは、その実フサフサに豊潤な風を取り込み風と一体化する風の申し子!

 華麗なるねこじゃらしさばきで逆に風を巻き起こせても不思議ではありません!」


「不思議だよ!? 俺どこまで母ちゃんの話マジメに聞いていいの!?」


「このねこじゃらしさばきを身につけるためにィィ、オレは音大で指揮者の訓練をしてェ……ウィーンのオーケストラで実際に指揮も振ったぜェ……!!」


「その努力の方向性を一瞬でも疑問に思わなかったのかな!?」

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