第7話 灼熱激辛!五徳猫!2

 近所の公園。ヒュウウと風が吹く。

 スズとアブリマルは向かい合った。ギャラリーは前回ほどではなく、ゲートボールのおじいちゃんたちくらい。


「いや、ギャラリーがついてること自体がおかしいからね?」


 アブリマルが挑発的に指を差した。


「先に言っておくぜ猫又スズさんよォ! オレサマは女子供だからといって、正面から向かってくる相手に手加減はしねぇ! 敬意を払うからだ! ガチンコでぶつかってくる相手にはガチンコで返すのが礼儀よ!」


「忠告どうもだにゃ。スズは見た目ほどかよわくないから、なんの心配もいらないにゃ。正々堂々、挑戦者として向かってくるがいいにゃ」


 母が旗を振り、バトル開始を告げる!


「出し惜しみはしないにゃおぼろろろ!」


「その嘔吐は出し惜しみして欲しいなー見た目の問題で!」


「さっそくのシャンプー毛玉! そのリーゼントをぺったんこにしてやるにゃ! どうかわすにゃ!?」


 スズは毛玉を投擲!


「そのくらい屁でもねぇぜ! オレサマの武器は、こいつだァ!」


「取り出したのは……トウガラシ!?」


「こいつをォ! ガブガブガブゥ!」


「丸かじりした!?」


「か、か、か、辛ェーー!!」ボォォォォ!!


「火ィ吹いたーー!?」


「にゃにゃッ、これは!?」


 アブリマルは口から火炎を放射! 飛んできた毛玉をすべて焼き飛ばしてしまった!


「がーっはっは! どうだ見たか! これがオレサマの得意技、トウガラシファイヤーだ! ひー辛ぇー舌が痛ぇー」ひんひん


「こいつもしかしてアホじゃない?」


「アホだにゃ」


「頭はアホでも男は腕っぷしよォ! おらおら行くぜぇガブガブ辛ぇー!!」ボォォォォ


「にゃにゃにゃ……! 炎のカーテンだにゃ! 毛玉も焼かれて、うかつに近づけないにゃ!」


「あわわわ、スズ勝ち目はあるの!?」


「大丈夫だにゃ。あんなにトウガラシをドカ食いしてたら、口の中はヒリヒリだにゃ。そのうち食べられなくなって、攻撃が止まるにゃ」


「えーっとオレサマは今何本トウガラシを食ったっけ? 舌は痛いんだっけか? 忘れたッ!!」


「忘れてるーー!?」


「まさかにゃ!? トウガラシを食べたことを忘れて、舌の痛みも消えたのかにゃ!?」


 アブリマルはビシッとポーズを決めた!


「忘れることも男の度量よ! 舌の痛みなんざ秒で忘れて、いつでもトウガラシを食い放題だぜ!!」


「なんということだにゃ、アホなのが強さに結びついてるにゃ!」


「かっこいいんだかマヌケなんだか分かんないけど、スズ、マジで勝ち目あるの!?」


 スズは毛玉を投げながら、火をよけ続けた。

 そして、ふと立ち止まり、遠い目をした。


「忘れるってことも、強さなんだにゃあ。この戦いで、よく分かったにゃ」


「スズ、何を!?」


「でもスズは、おりこうさんな生き方しか知らないにゃ。そう簡単に忘れられないにゃ。例えばキウイ、朝ごはんは何を食べたか、覚えてるかにゃ?」


「いったい何を言って……そりゃついさっき食べたばっかだから覚えてるけどさあ、ハチミツトーストにココアだよ」


「今日のメニュー、甘いのに甘いのを重ねて甘ったるかったにゃあ」


「まあそうだけど……メニューの文句は母ちゃんに言ってね? というか、こんな場面でなんでそんなことを!?」


 アブリマルはとどめのトウガラシを口にほおばる!


「好物でも食ってりゃもっと馬力が出たかァ!? 残念な話だが、いつでも全力を出せなきゃあ番長は務まらんぜ! 最後の必殺トウガラシファイヤー! か、か、辛……あれ?」


 アブリマルは目をぱちぱちさせた。


「辛く、ねえ? なんか甘いぞ、それにベトベトして……!?」


 キウイは気づいた。大量に焼き飛ばされた毛玉、その中に入っていたのはシャンプーではなかった。その中身が、持っていたトウガラシにかかったのだ。


「あ、もしかして!? スズ、こんなときに朝ごはんの話をしたのは!?」


 スズはびしりと指を差した。


「スズはなめとった物を毛玉に封じ込めるにゃ! 当然朝ごはんだって封印可能! アブリマル、リーゼントばっかり警戒して、他への守りがおろそかだったにゃ! 今オマエが焼き飛ばして自分の荷物にぶちまけたのは、朝ごはんのハチミツだにゃ!!」


「な、なんだってェ!?」


 アブリマルはがくぜんとした。辛くなければ、火を吹けない!


「そしてこっちの毛玉が本命にゃ! 食らうにゃシャンプー毛玉ッ!!」


「ま、待て、リーゼントは男の生き様だ、そいつを崩すなんてひどいこと、ぎゃああああ〜!!」


 アブリマルは全身にシャンプーを浴びた。

 アワアワになり、完全に崩れた前髪をだらんと垂らして、アブリマルは仰向けに倒れた。


 母が旗を上げた。


「そこまで! 勝者、スズ!」


「「「ウォォォォー!!」」」


 ギャラリーの歓声を浴びながら、スズはしみじみとつぶやいた。


「アブリマル。本当は、猫の舌は甘味を感じないにゃ。オマエは化け猫として、人間に化けられるようになったことで、猫本来の性質を忘れてしまった。それが敗因だにゃ」

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