第5話 ピラミッド襲来!バステト女神!4

 激闘が終わり、学校から喧騒は引いていった。

 あっちこっちにばらまかれたピラミッドは、ジャミーラの妖力で維持されていたもののようで、ジャミーラが気絶したのを皮切りに消えていった。


 意識を戻したジャミーラに、スズは手を差し伸べた。


「今回はスズの勝ちだけど、ジャミーラはすごく強かったにゃ。ナイスファイトだにゃ」


 出された手を、ジャミーラは見つめ、それから握り返さず、そっぽを向いた。


「敗者に情けなど無用だわぁ。勝者なら勝者らしく、みじめな負け猫のわたくしをあざ笑いなさいな」


 スズはジャミーラを見つめ、それからジャミーラの手を強引に取って両手で握り、ほほ笑みかけた。


「そんなことしないにゃ。一度戦って手を握れば、明日から友達だにゃ。これから仲良くしようにゃ、ジャミーラ」


「あなた……」


 ジャミーラはスズを見つめ返した。その目の奥に、複雑な感情が揺れ動いていた。


 キウイが走り寄り、スズに声をかけた。


「スズ! ケガしてるだろ、見せてみなよ」


「え、スズはそんなたいしたケガは……」


「必死で逃げ回ったりピラミッドの下からはい出したりして、すり傷ができてるでしょ。ちょっとしたケガでも、ばい菌が入ったら大変だぞ」


 キウイは傷口を消毒し、手早く絆創膏を貼った。

 全部済むと、スズに笑いかけた。


「よし、これでオッケー。ありがとうねスズ、正直状況はよく分かんなかったけど、俺のためにがんばってくれてうれしかったよ」


 スズは、キウイのその笑顔を、真正面から見た。

 そして。


「……おぼろろろろろ」


「なぜ吐くー!?」


 大量の毛玉を吐いたスズは、その毛玉で顔をうずめた。


「スズはただ、当然のことをしただけだにゃ。だから、そんな優しくされたりすると、その、顔を見せられないにゃ」


 顔面はしっかりと隠していたが、隠しきれていないねこみみが、ほんのり赤くなっていた。


「息子よ、ラブロマンスですね」


「いや違うけど。見た目は女の子でも猫なんだから、俺は普通の人間の女の子と恋したいから」


「マタタビのクォーターが何を言っているんですか」


「チクショウ!! なんかあったらすぐマタタビの血を引いてることいじられちまう!!」


 ジャミーラはその様子をながめ、決然と立ち上がり、それからほがらかな声で告げた。


「ふ、完敗だわぁ。わたくしが負けたのはただ力の問題ではなく、心の問題だったようねぇ」


「えっそんな戦いだった? シャンプーの問題じゃなかった?」


 ジャミーラはきびすを返し、高らかに宣言した。


「今日は退かせてもらうわぁ! 我が最大のライバルにして友であるスズ! いつかあなたを超えてみせる! そしてぇ!」


 返したきびすをまた返し、ジャミーラはキウイの眼前に迫った。

 びっくりしたキウイに構わず、ジャミーラはキウイのほおに、口づけをした。


「……んな!?」


 あぜんとするキウイと、それ以上にショックな顔をするスズ。

 ジャミーラは今度こそきびすを返すと、高笑いとともに言葉を残した。


「スズに勝ったあかつきには、ダーリン! あなたをわたくしのものにするわぁ! それまでせいぜい守り通してみなさぁいスズ! おーっほっほっほ!」


 ジャミーラは素早く走り去り、見えなくなった。


「……アイツ、もっと徹底的にシメればよかったにゃ」


 地響きを起こしそうな怒りの表情をにじませながら、スズは毛玉を握りつぶした。


「息子よ、三角関係ですね」


「俺これどう対応すればいいの……」


 残ったのは、ただ休校の静かな学校と、キウイのマタタビエッセンスに引き寄せられる猫たちだけだった。

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