第4話 ピラミッド襲来!バステト女神!3
突如休校となったこの学校だが、たくさんの人でにぎわっていた。
目当ては猫人間たちのバトル。ねこみみ幼女とねこみみ褐色美女の決闘を観戦せんと、屋上やらから校庭を見下ろしていた。
「俺、一番の当事者だからって審判も兼ねて朝礼台に座らされたけど……初めて朝礼台に乗ったのがこんな機会ってどうなんだよ」
クラスメイトがキウイに声をかけてきた。
「よーキウイーおもしろいことになってんなー」
「はたから見てりゃおもしろいんだろうけどさぁ。てかみんな、状況分かってんの?」
「おまえの母ちゃんがビラ配ってたぜ、『祝!マタタビ人間覚醒!猫人間による奪い合い決闘開幕!』って」
「何やってんの母ちゃん!! 頼むから俺の平穏な高校生活を返して!!」
「まあまあ。ほら、始まるぜ」
校庭に目を向けると、スズとジャミーラが向かい合っていた。漂う緊張感。手旗をもってちょっと離れたところに立つ母ちゃん。マジで何やってんの母ちゃん。
ジャミーラが色気たっぷりに指を伸ばし、スズを指して口を開いた。
「さて、猫又スズ。いみじくもこのわたくしに盾突くことについて、後悔はないかしらぁ?」
「あるわけないにゃ。そっちこそ女神の名前に傷がつく前にやめとくのが賢明にゃ、バステトの分霊ジャミーラ」
「笑止! わたくしの戦闘力を見て度肝を抜けばいいわぁ! 食らいなさぁいサモン・ピラミッド!」
戦闘開始! ジャミーラの妖力がみなぎる!
「にゃっ!?」
「空にピラミッドが!?」
上空にピラミッドが召喚! ズンズンと降り注ぐ!
「にゃっ、にゃにゃっ、くぉんのっ……!」
「うまくよけてるわねぇさすがはわたくしと同じ腐っても猫の端くれ! でもよけてるだけじゃぁ勝ち目なんてないわよぉ!」
「百も承知だにゃ! スキをうかがってからの、食らうにゃ猫パンチ!」
「甘いわぁムーンウォーク!」
「華麗なバックステップでよけられたにゃ!」
「その程度でわたくしに勝てるつもりでいたなんて、片腹痛いわぁ! ほらほらサモン・ピラミッド!」
「ふんにゃっ、にゃ、にゃにゃ……! 逃げ、逃げる、逃げ続けるにゃ……!」
「あわわわスズが防戦一方だぞ……! これやばいんじゃ? 俺このままエジプトに連行されちゃうんじゃ?」
「息子よ、まだそれは分かりません」
「え?」
ピラミッド攻撃の間隙、スズはやにわに仁王立ちした。二本の尻尾を波打たせ、全身に力をみなぎらせた。
「とうとう、本気の本気にゃ……! この体内からあふれ出る、奔流、うっ、おぼろろろろろ」
「吐いたー!?」
スズの口から流れ出す濁流。そこにはいくつもの球体があった。
「ふぃー、今日の毛玉は大量にゃ。スッキリしたにゃ」
「思わせぶりな感じにして、毛玉吐くだけかーい!?」
ジャミーラはその光景を見て、高笑いした。
「ほーっほっほっほ! ぶふっ、ぎゃはははは! 猫又が聞いてあきれるわぁ! 長生きして妖力が高まったところで、そんじょそこらの猫と変わらないじゃなぁい! イーッヒッヒッヒ、お腹痛い」
「ツボに入った笑い方したね今」
ジャミーラは気を取り直し、スズに両手の指を向けた。
「茶番は終わらせて、さっさと決着をつけるわぁ! 超巨大サモン・ピラミッド!」
スズの頭上に、これまでとは比べ物にならない大きさのピラミッドが出現した!
「うわあスズ逃げろー! いや逃げ場なんてない、降参するんだスズー! あんなの降ってきたら死んじゃうよ!」
スズは立ちつくし、ピラミッドを見上げた。それからキウイに顔を向け、笑った。おだやかな笑顔だった。
「キウイ。オマエの覚醒、スズはうれしく思うにゃ」
ジャミーラが指を振り下ろした。ピラミッドが落下し、地響きを立てた。
「うわあああスズー!!」
砂ぼこり、そして沈黙。こんな巨大なピラミッドに押し潰されれば、ひとたまりもない。誰もがそう思った。
だが。
「……いや、あれは! ピラミッドの下、隙間がある!」
「何ですってぇ?」
キウイの指摘に、ジャミーラは目をこらした。ピラミッドと地面の間に、確かに隙間があった。
その隙間から、はい出してきた存在。
「ふぃー、ちょっとヒヤッとしたけど、なんとかなったにゃ」
「スズー!」
ほとんど無傷のスズに、ジャミーラは驚愕した。
「な、なぜ潰れていないのかしらぁ!? わたくしの最大威力のピラミッドを落として、なぜピンピンしてるのかしらぁ!?」
「本気の本気だと、言ったはずだにゃ」
スズは手に持った物を見せた。
それは毛玉だった。
ジャミーラは思い当たり、また驚愕した。
「ま、まさか、毛玉をクッションに!? ピラミッドの下にはさんで、隙間を作ったとでも言うのかしらぁ!?」
「あれこそスズさんの奥義、【
「知ってるの母ちゃん!?」
ジャミーラは歯噛みし、それからまた妖力を込めた。
「タネが分かれば簡単だわぁ! 毛玉ごときで支えられないくらい、大量に召喚するだけよぉ!」
「フンッ!」
スズが毛玉を投擲した。ジャミーラはよけるが、至近距離で毛玉が爆発した。
「ぶふっ!? こ、この程度の目くらまし……はららぁ?」へべれけ〜
「なんかジャミーラが酔っ払ったみたいになった!? あれはいったい!?」
「これぞスズの毛玉の奥義だにゃ。スズは毛玉の中に、なめたり胃袋に収めた物を封じ込めることができるのにゃ。そしてスズは、今朝キウイをぺろぺろしたにゃ」
「そ、そうか! 俺の体は今マタタビ人間だから、マタタビ成分がスズになめ取られたってこと! それが毛玉に入っていたから、ジャミーラがへべれけになったんだ!」
「息子よ、自分がマタタビ人間だと認めましたね」
「いや違うー!? そうなんだけど俺はまだ納得してねえよ!?」
「さて、毛玉はもう一種類あるにゃ」
「くっ……次の毛玉は……いったい何がぁ……?」
「他の猫と敵対したときのためになめ取っておいたけど、これに触れるのはスズも恐怖だったにゃ」
「スズも恐怖するもの? 猫が怖がるものなの? 何が入ってるんだろう」
「そう……あれは恐怖の象徴……風呂場に鎮座する拷問の薬液……!」
「ふ、風呂場……まさか!?」
「恐怖したにゃジャミーラ! そう、この中身は! 『シャンプー』だにゃ!!」
スズは毛玉を連続投擲! ジャミーラの周囲で炸裂し、中の液体を浴びせかける!
「いやあああーシャンプーわしゃわしゃは死んでもイヤぁ〜〜!!」
絶叫むなしく、ジャミーラはシャンプーで泡まみれになった。ジャミーラは目を回し、腹を出してその場に倒れた。
母は旗を上げた。
「これにて決着! 勝者、スズ!」
「「「ウオオオオーー!!」」」
ギャラリーの歓声に応え、スズは片手を振り上げ、笑顔を振りまいた。
キウイだけ、ただ呆然としていた。
「なんなのこの戦い……」
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