第15話 職質と休養
朝から不審な車を見ると普通の人は目を背ける。
わかっているさ……中で黒ずくめの男が二人、目を血走らせてあたりを監視しているからなおさらだ。
道行く人は顔をしかめせっかくの快晴が俺たちのせいでぶち壊しなのだろう。
「コンノー、ホントにどっから来たか見てなかったのかよ」
俺は、不機嫌全開で今野に突っ込むとコンビニで買ってきたアンパンを口に詰め込んだ。
何か警察の張り込みの定番みたいで屈辱を感じるが後の祭りだ。
コンビニに行かせた今野はニコニコしながら張り込みの定番ですとアンパンと牛乳を買ってきた。
「何で刑事でも無いのに俺はこんな所であんぱんを食っている?なあ、今野何故だ?仮にもわれわれは宇宙人から国家の危機を何とかしようとしているんだが、なぜアンパンに牛乳なんだ。せめてタラコのおにぎりが食いたいんだよ」
「そんな、先輩何でもいいって言ったじゃないすか」
「そこなんだよ、ゆとり世代、余計な思い込みにとらわれて定番で済ませようとする、自分で考えて行動しようとしない、言われた事だけやれば給料もらえるなんて出世しねえよ」
「そんなこと現場専門の先輩に言われたくないですよ、だいたいホントに宇宙人だったらアメリカが黙ってないですよ……あーせっかく国家公務員になったのに仕事で宇宙人を捕まえようなんて親が聞いたら泣きますよ」
今野にしては口答えをするのは2日も布団で寝てないからだろう。
そこへやっぱりと言うかなんと言うか、おまわりさんの登場だ。
そりゃ通報されても文句など言えない状態だ。
窓を叩いて俺らに向けられた笑顔の目は笑ってない。
今野が窓を開けた。
「おはようございまーす、コチラで何かお仕事ですか?」
間抜けな質問に今野がおどおど対応しているのに耐え切れなくなって、つい口をだした。
「おい三下のおまわりさんよ、今忙しいんだよ今すぐ消えろ」
警察官の顔から朝の微笑みは消え去り明らかに敵意に満ちた表情に変わった。
「おい、そっちのお前!車から降りなさい」
警棒に手をかけた警官が命令口調で言った。
明らかにイラついているのが分かる。
俺は運転席に座る今野の顔の前を横切るように警察官に向けて身分証を突き出した。
〈防衛省国家安全管理計画局、特務捜査室、室長、石川浩太〉
警察官の顔からどんどん威勢が消えていきおどおどし始めたかと思うと、急に直立してから「失礼しました」と敬礼をした。
俺は鼻で笑ってから作戦を開始する。
「まあ、君も職務だからしょうがないけどコチラは極秘任務だ。それで君の名前は?」
「はっ、矢島健一であります」
警官は直立で敬礼したままで言った。
「そうか矢島君ね、ちょっと君に頼みがあるのだが、頼まれてくれるか?」
「私に出来る事なら」
「そうかそれは助かるそれではこれ、極秘だから人に見せないように」
そう言って例の画像写真を渡した。
警官は賞状でも受け取るようにその写真を丁寧に受け取った。
「これは?」
「その男、たぶんこの辺に住んでいると思うんだが、この場所に立って見かけたら職質して住所と名前聞いておいてくれ、重要人物なのだ、たぶん高校生かと思う。俺たちは今から、急用で基地に行かないと行けないのでね。終わったら昼ぐらいに交番に行く、くれぐれも極秘だから他言無用でよろしく」
近所の交番の住所を確認して警官を残して車を出した。
走り出してからぽかんと見送る警官の姿に、ついにこらえきれずに笑い出した。
隣で今野もぽかんとしている。
「先輩身分証持っていたんですね、しかも特務の室長もしていたなんて知りませんでした」
今野の言葉に涙目で笑いながら身分証を見せる。
「偽造だよ、こんなの警官は見たことないだろ、俺もないなー、結局権力には権力、こういう事もあろうかと作っておいたんだよ、準備は怠るなと言う事だな」
「先輩それ、犯罪ですよ」
目を細めて小さな声で突っ込んだ今野に大笑いでごまかした。
「まあ、いいじゃないか、国家を侵略者から守るんだから、さあ急用を休養に変えて飯でも食いにいくぞ」
俺はうなだれる今野を無視して何を食べようかと盛り上がった。
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