第14話 モウ、スコシデ

「ナノハさんは超常現象なんか信じます?」

 昼時のファミレスでの奇怪な質問に若干目を丸くしたナノハさんは、口元まで持っていったサラダをとめた。

「やっぱり出るの?あの部屋」

 少し引きつった顔で無理に微笑むナノハさんは僕を見た。

「やだな、違いますよ、部屋の話じゃなくて、最近この町で起きている超常現象の事ですよ」

 僕がそう言うとほっとしたように表情が柔らかくなった。

「そ~ね、私は直接関わった事が無いけど色々あるみたいね」

 僕は昨日見たテレビのことを話すとナノハさんも同じものを見ていたようだ。

「私の友達がね、あのT病院の事務で働いているのだけど、システムの異常があった日に脳挫傷の女の子が運ばれてきたんだって、すでにダメだったらしく……で、結局その子は助からなかったんだけど、亡くなってすぐにそのシステム異常が起きたそうよ、しかも一部のモニターに一瞬だけ女の子の顔が映ったそうなの、でね、それだけでも怖いんだけど、夜勤をしていた看護師さんがその女の子を見たんだって、しかも半透明で一瞬だけ目の前に現れたそうよ」

 僕はナノハさんの言葉を頭の中で整理して全体を見るとやはり今の家にいる誰かは病院の事と関係しているように思えた。

 そして中心があの黒い箱と言う事になる。

 そんな事を考えながらも昼食を終えナノハさんとの買い物も楽しんだ。

 ナノハさんのお陰で今日の用事は滞りなく済ませる事が出来た。

 取って来た真新しい制服が皺にならない様にハンガーに掛けたまま部屋の長押に掛ける。

 一応布団も買ってきた。どれでも一式8800円という物だが。

 寝ているときにまた〈ワタシノ〉とか言われるのは勘弁だ。

 ナノハさんが布団無かったの?と聞いてきたので笑ってごまかしたのはいうまでもない。

「あの、新しいフトン買ってきました。こっちの方は使っちゃたので交換と言う事でお願いします」

 誰もいない部屋で見えない何かに語りかける僕は狂ってしまったのか?

 そんな疑問も、温度のある電子的な風?うまく表現できないが頬を撫でて行ったことでなんとなく許してもらえたように思えた。

 風が吹いたわけではない。

 僕はそっと頬に手を当てて願った。

 黒い箱の持ち主に会える事を、何を伝えたいのか箱はなんなのか、それでも幽霊は怖いけど話せば大丈夫かもなどとのんきに思ってみる。

 言葉が通じればいいけど。

 しばらく頬に手を当てていたとき耳の奥で電気的なノイズが聞こえ始め少し頭がいたくなった。

 そして微かな声が聞こえ出す。

「モウ・スコシ・で、ニジ……シュウハスウが……ア……ウワ」

 耳の奥の空気が振動した。

 しばらく動けないほど眩暈がしてそばにあるゴミ箱に少しだけ嘔吐した。

 未知との遭遇は思ったよりも大変な事になりそうだ。

 脳にダメージとかあったらヤダナと思いながら水を飲むと口の中が苦いもので満たされる。

 もう一度声を聞こうと集中してみたが、部屋はしんとして答える事はなかった。


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