第11話 気配とニュース
3部屋あるうちの真ん中の台所と繋がった部屋が居間、洋風に言うとリビングだがバリバリの日本間で両側も和室だ。
居間のちゃぶ台をどけて布団を敷く、この部屋にテレビとちゃぶ台があり当分この部屋が生活スペースだ。
何せ東京のマンションは賃貸で貸し出したため、大きな家具はレンタル倉庫に預け、そのほかの親父の荷物とかその他処分できないものを全てここに持ってきたのだからしょうがない、一部屋は倉庫と化している有様だ。
そんな訳で一人なのに結局3部屋も必要だった。
いわば事故物件に住む事になった原因がそこにある。
まさかマンションを貸してしまうとは夢にも思わずのん気にアパート探そうと思っていた矢先父親に告げられた指令、安くて部屋数の多い物件で頼む。まあ、海外に行くのをかたくなに拒否した僕にも責任はあるのだろうから仕方ない、誰も住まないと家も傷むと言うしそれなら誰かに住んでもらって家賃も入る。
んっ?家賃も入る?
確か海外勤務と言うのは、単身赴任の場合手当がドーンと、それで家賃も入ってしかも向こうでは社宅で、父親曰く「食べる事ぐらいしか金が掛からん、ははははは」と言っていたような……と思っているとスマホが一度反応した。
父親からのLINE、なになに?
(ユキオそっちはどうだい?)
(ちゃんとご飯食べたか?)
(こっちは朝だ。父さんは今から仕事に行きます)
(昨日届いた新車のオープンカーで出勤です)
(写真添付)
カッコイイアングルで車の写真。
「あのやろ」
僕には安物件探させといて自分は優雅にオープンカーでご出勤ですか……笑いがこみ上げる。
父親も新しく生きているのだと思った。
僕なんかより何倍も辛いはずなのに気丈にふるまう人だ。
そういえば母が言っていたのを思い出す。
お父さんはめげない人だと、さすがだ。
(こっちは順調ですみんなよくしてくれます)
(新車よさそうですね、此方安物件にて今から就寝予定)
(そうそう振込みの生活費1万円アップでお願いします)
(それでは仕事がんばってくれ、おやすみなさい、倹約家の息子より)
(スタンプ)
これで少しらくになるといいな、そうだバイトも探さないと17歳の夏はお金も掛かるし彼女なんて出来たらそれこそ……そういえばあのダンボールの女の子は……なぜかあの女の子の顔を思い出して同じ学校だったらいいなと淡い期待がこみ上げる。
これは青春の煩悩?……誰も居ないのに顔がポッとなる。
僕はアホだ……さあ寝よう
恥ずかしさをごまかしながら布団に入ると体がゾクッと震えた。
「フ、ト、ン、ワタシのダ」
どこからとも無くと言う表現がぴったりの声が僕の耳に飛び込んできた。
お腹の辺りの筋肉がキューと縮んで背中を冷たくした。
思わずフトンから転がり出ると片膝で変な構えをしてしまった。
今声が聞こえた?……
いやいや聞こえたような気がしただけだ。
そうに違いない、中途半端な片膝で暗い部屋の中にいつもの百倍注意を払う。
何分ぐらいそうしていたのか分からなくなる。
確かに聞こえた声は時間と共に現実から隔離され本当に聞こえたのかどうか脳が判断できなくなる。
聞きたくないのにもう一度確証を探して耳を欹てるのは何故だろう。
誰しも信じられないものに遭遇するとそれをたしかめずにはいられなくなるのか、今の僕はその声を聞こうと高感度の神経接続を試みているのだ。
静かだと思っていた外から雑踏の名残がこの部屋まで届く。
一つ通りを隔てた道からの音は意味を失っても混ざり合って時々一つの言葉に変化する。
きっとこの音が僕の中で攪拌されて違うものへと変化させたに違いない。
幽霊の正体見れば枯れ尾花と言うではないか、それと同じで聞こえてもいない声を聞こえたように思って一人恐怖に怯えても仕方ないだろう。
僕は結論を出し、布団にもぐりこむ、今度は何も感じない。
唯一、研ぎ澄まされた神経接続は僕の眠りかけの精神状態を刺激して暗闇の中にいろいろな事を映し出しては消える。
目を閉じても寝返りしても一度そうなるとなかなか寝付けない体質なのだ。
こんな時は寝るのを諦めて、本を読むとか借りているDVDを見るとか手立ては有るのだが、何せ引っ越してきたばかりで、本はダンボールの底の底、DVDに至っては借りるところさえ知らない。
配信にて動画鑑賞する環境がこの家にあるはずもなく、大人なら酒でも飲んでしまえば何とかなるだろうが高校生はせいぜいコーラがいいところで、さわやかさでますます目が冴えるだろう。
「あー初日からこれかよ!」
時計は11時40分を表示している。
一時的に寝るのを諦めてテレビをつけた。
スマホをいじって寝落ちするのが嫌いでテレビだ。
結局深夜枠のニュースを見る。
特に興味のある話題もなく日々僕の関係のないところで世界の動きを監視している有様にちょっとだけ憂鬱になる。
僕個人の心霊現象もどきの安眠妨害のせいで、今日のニュースを知る事になるとは、なんて乙なのだろう。
すっかり覚醒した頭じゃニュースより娯楽と思いリモコンに手をかけた時だった。
画面にこの街のT病院と紹介されている映像が目に止まる。
何かの検証企画的なコーナーで電子機器の異常による医療センターの危機は何故起こったかみたいな内容だった。
半月ほど前の事故らしい、夕方の時間に原因不明のコンピューターの異常が発生してシステムダウンしてしまい、医療機器に深刻な障害が発生したと言うことだ。
幸い病棟での死人こそ出なかったが、このような事が起きてしまったことにたいして、システムを管理する会社の責任者へインタビューしている所だ。
「こんな事が起こる事は考える限りありえない2重3重に安全のための対策が取られています」
顔色の悪い管理者は困惑の表情を浮かべた。
セキュリティーに関しても問題無く外部からの進入の形跡もないらしい、締めくくりに言った一言がぼくの僕の中でなぜか引っかかった。
「こんな事言いたくないのですが、もう超常現象としかいえません。出来るとしたら宇宙人の仕業ですよ」
VTRが終わってスタジオに戻った画面でアナウンサーと解説のおじさんがあきれたように無責任な発言だと話していた。それでもレポートした人がこの近辺で起こった最近の不思議な?出来事について熱っぽく語っていた。
何日か頻発した電波障害や、国道沿いの民家のコンピューターが異常な文字配列の表示で使えなくなる現象が報告されていたり、連続して河原で目撃された突風の後に突然現れた黒い箱を持った少女の話や……ん?黒い箱?……僕は心当たりのある黒い箱を思い出した。
これって……
僕は想像も出来ない事に巻き込まれそうな不安がこみ上げてきた。
口の中が乾くのは不安のせいだろうか。
冷蔵庫からミネラルウォーターを持ってきて半分ほど飲むと冴えきった頭を無視して無理やり眠ろうと思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます